村上敏明

日本のオペラ界を代表するテノール歌手として、国内外で精力的に活動を展開する村上敏明は、1972年に東京都日野市に生まれました。東京都立日野高等学校を卒業後、国立音楽大学声楽学科で研鑽を積み、在学中からオペラの舞台に立っています。卒業後、(財)日本オペラ振興会オペラ歌手育成部で学び、さらに文化庁の芸術インターンシップ国内研修員に選ばれるなど、着実にキャリアを築き上げました。

彼のキャリアにおける大きな転機となったのが、二度にわたるイタリアへの留学です。2001年から2003年には文化庁派遣芸術家在外研修員として、そして2004年から2007年には第15回五島記念文化財団オペラ新人賞受賞を機に、再びボローニャで学びました。この間、本場イタリアの地で多くの国際声楽コンクールで優勝や上位入賞を果たし、特に2002年にはロヴェレートのG.ヴェルディ協会からヴェルディ記念賞を授与されるなど、その才能は高く評価されました。2002年のイタリア・オルヴィエートでのヴェルディ『リゴレット』におけるマントヴァ公爵役での出演は、彼のヨーロッパデビューとなりました。

村上敏明は、オペラ歌手として日本国内はもとより、イタリアの舞台でも数多くのプロダクションでプリモ・ウォーモ（主役テノール）を務めています。新国立劇場や藤原歌劇団をはじめとする主要なオペラ団体において、プッチーニ『ラ・ボエーム』のロドルフォ、『蝶々夫人』のピンカートン、ヴェルディ『椿姫』のアルフレード、『トスカ』のカヴァラドッシなど、主要なテノール役を数多く歌い、観客を魅了してきました。特に『蝶々夫人』のピンカートン役や『トスカ』のカヴァラドッシ役は、イタリア各地でも主演を重ねる彼の当たり役と言えるでしょう。そのレパートリーはイタリアオペラを中心に、別宮貞雄『葵上』や團伊玖磨『夕鶴』といった日本オペラ、さらにはワーグナーやビゼー、オッフェンバック作品を含む60以上の役柄に及びます。オペラアリアだけでなく、50曲以上のカンツォーネや日本歌曲を暗譜していることも、彼の音楽家としての幅広さを示しています。

オペラ公演に加え、コンサート活動も精力的に行っています。ベートーヴェン『第九』のテノールソロやモーツァルト『レクイエム』などの宗教曲ソリストを務めるほか、年間30回から40回ものトークコンサートに出演し、親しみやすい語り口でオペラや歌曲の魅力を伝えています。また、2018年と2021年には関西フィルハーモニー管弦楽団との「三大テノールを迎えて」と題したコンサートに出演し、大きな話題となりました。

演奏活動にとどまらず、音楽教育者やプロデューサーとしてもその手腕を発揮しています。聴衆参加型のコンサートや教育プログラムを数多く企画・プロデュースし、オペラの普及や次世代育成に貢献しています。南大沢コミュニティオペラや勝浦歌劇団では芸術監督や総監督を務め、地域の文化振興にも深く関わっています。

メディアへの露出も多く、NHKの「ニューイヤーオペラコンサート」には長年出演し、その歌声を全国に届けています。その他、「芸術劇場」や「クラシック倶楽部」など、数多くの番組に出演。近年はネット配信を通じて、自身の歌唱映像やワンポイントレッスンを公開するなど、新しい試みも行っています。

音楽的な背景として、両親が音楽教員であり、特に父親がマリオ・デル・モナコの熱狂的なファンであったことが挙げられます。村上氏自身、頭の中の音楽はマリオ・デル・モナコと忌野清志郎でできていると語っており、忌野清志郎が好きすぎて同じ高校を選んだというユニークなエピソードも持っています。また、母の実家がある北秋田市でのリサイタル開催など、ルーツとの繋がりも大切にしています。その堂々たる歌声の源泉の一つとして、プロレスラー並みという245Kgの背筋力が話題になることもあります。

数々の受賞歴と輝かしい舞台実績、そして多岐にわたる活動を通じて、村上敏明は日本の声楽界において確固たる地位を築いています。藤原歌劇団団員として、また教育・プロデュース活動を通じて、今後も日本のオペラ文化の発展に寄与していくことが期待されています。

もう一度検索