村方千之

村方千之：情熱と卓越した技術で音楽界を牽引した指揮者

村方千之（むらかたちゆき、1925年 10月29日 - 2014年 12月14日）は、福岡県出身の日本の指揮者です。日本指揮者協会の会員であり、2014年に89歳で亡くなるまで、日本最高齢の指揮者として活躍しました。後進の育成にも力を注ぎ、「村方指揮法教室」を主宰し、多くの才能ある指揮者を育て上げました。ブラジル政府よりリオ・ブランコ勲章を受章した他、第1回ヴィラ＝ロボス国際指揮者コンクールで特別賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を受けています。日本ヴィラ＝ロボス協会会長、日本演奏連盟会員、東京都中学校吹奏楽連盟初代理事長といった要職も歴任しました。

音楽との出会いと成長

村方の音楽との出会いは、12歳で自由学園に入学した時に始まります。最初はフルートを学び、後にヴァイオリンに転向。3年後にはオーケストラの中心メンバーとして活躍しました。17歳でコンサートマスターを務め、ベートーヴェンの「第九」やヘンデルの「メサイア」、ハイドンの「天地創造」などの大曲を演奏しました。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ウェーバー、ドヴォルザークなど、数多くの作曲家の交響曲、協奏曲、序曲にも取り組み、幅広いレパートリーを築きました。

また、友人たちと弦楽四重奏を結成し、ハイドンやモーツァルトといった室内楽も演奏しました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、音楽活動は中断。終戦まで軍隊で過ごし、復員後に再び音楽活動を再開しました。

戦後の活動：1970年代前半まで

1946年、福岡県中間市の室内管弦楽団に参加。同時にヴァイオリンのリサイタルも開催しました。1949年には東京藝術大学楽理科に入学し、音楽史と和声理論を専攻。金子登や渡邉曉雄に師事し、指揮を学び始めました。1952年にはクルト・ヴェスのもとで指揮の技術を磨き、1955年に東京藝術大学を卒業。その後、山本直純らと共に東京アンサンブル・アカデミー・オーケストラを設立し、各地でコンサートを開催しました。若者への音楽文化の普及に貢献するとともに、齋藤秀雄の音楽教室で研鑽を積み、レパートリーを拡大。桐朋学園オーケストラでは齋藤秀雄のアシスタントを務めました。

30代後半からは、母校である自由学園オーケストラの指揮者を5年間務め、1958年には立教大学交響楽団の常任指揮者に就任。5年間にわたりオーケストラの技術向上に尽力しました。1960年代には、若者の音楽教育に強い関心を持ち、アマチュアオーケストラ、吹奏楽団、合唱団体の育成に力を注ぎました。また、ラジオ放送の音楽教育番組でも指揮者として活躍しました。1970年には東京音楽大学で教鞭をとり、三枝成彰らと共に活動し、定期コンサートを指揮しました。

1970年代後半以降：国際的な活躍と後進の育成

1975年、ブラジルで開催されたヴィラ＝ロボス国際指揮者コンクールで特別賞を受賞。その卓越した指揮技術は、ブラジルの新聞でも絶賛されました。特に、オーケストラとのコミュニケーション能力や、身体全体を使った指揮は、「リズムの正確さだけでなく、感情、色彩豊かなダイナミクス、音の洪水のようなアタックに満ちている」と高く評価されました。また、言葉を超えた意志の伝達能力は、リハーサル時間を短縮するほど効率的でした。

1977年の受賞記念演奏会では、東京フィルハーモニー交響楽団を指揮。その後も、東京交響楽団、札幌交響楽団、九州交響楽団などを指揮しました。1982年にはヴィラ＝ロボス国際チェロコンクールの審査員として、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のフィンケ（エーベルハルト）と共に審査を務めました。また、日本人作曲家の作品をブラジルに紹介するなど、日本とブラジル間の音楽文化交流にも貢献。1987年には、ヴィラ＝ロボス生誕100年記念演奏会を企画・指揮し、日本におけるヴィラ＝ロボス作品の普及に尽力しました。

1987年11月には、ブラジルに招かれ、ブラジリア、リオ・デ・ジャネイロ、サンパウロなどで交響楽団を指揮。当時の文化大臣との会見も行い、両国の音楽文化交流に貢献しました。1988年6月には、これらの功績が認められ、ブラジル政府から「リオ・ブランコ勲章」が授与されました。その後も、国際交流基金の派遣で、ブラジル、チリ、パラグアイなど南米諸国を訪問し、指揮を行いました。

2000年には、ルーマニア国立交響楽団やブルガリア・ヴァルナ音楽祭で指揮。2008年にはブラジルのニテロイ市立交響楽団を指揮しました。

長年にわたり指揮者として活動する傍ら、50年間にわたり「村方指揮法教室」を主宰し、後進の指導と啓蒙に力を注ぎました。2014年 12月14日、心不全のため東京都板橋区の病院で逝去。享年89歳でした。

村方千之は、その卓越した指揮技術と情熱的な指導を通じて、日本の音楽文化の発展に大きく貢献しました。特に、ヴィラ＝ロボスの作品の普及に尽力し、国際的な音楽交流にも積極的に取り組んだことは、特筆すべき功績です。

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