クルト・ヴェス

クルト・ヴェス:オーストリアの巨匠指揮者



クルト・ヴェス(Kurt Wöss, 1914年5月2日 - 1987年12月4日)は、オーストリア出身の指揮者音楽学者として国際的に活躍しました。彼の音楽に対する深い造詣と情熱は、多くの聴衆を魅了し、後進の育成にも尽力しました。

生涯と音楽への道



1914年リンツで生まれたヴェスは、幼少期をツァイレアンで過ごし、グラーツギムナジウムで学びました。その後、ウィーン国立音楽大学に進学し、マックス・シュプリンガーとヨーゼフ・マルクスに作曲を師事しました。さらに、フェリックス・ワインガルトナーに指揮法を個人指導で学ぶという恵まれた環境で音楽家としての基礎を築きました。ウィーン大学では、ロベルト・ハースやエゴン・ヴェレスらに師事し、音楽学の知識も深めました。

指揮者としてのキャリア



1946年、ヴェスはウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の首席指揮者に就任し、そのキャリアを本格的にスタートさせました。1951年から1954年までの間は、NHK交響楽団の首席指揮者として来日し、リヒャルト・シュトラウスの「家庭交響曲」など、数々の日本初演を手掛けました。N響退任後はウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団に復帰する一方、メルボルン交響楽団やリンツ・ブルックナー管弦楽団の首席指揮者も務めるなど、国際的に活躍しました。

1983年には東京フィルハーモニー交響楽団に客演し、ブラームス交響曲全曲チクルスで、師ワインガルトナーが得意とした交響曲第2番を指揮しました。1985年にはウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団を率いて来日し、同年秋にはウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団の来日公演にも帯同しました。1986年にも来日するなど、日本との縁も深い指揮者でした。1987年ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団とのブルックナーの交響曲第2番のリハーサル中に心筋梗塞を起こし、ドレスデンでその生涯を閉じました。

N響との関わり



ヴェスがN響の常任指揮者に就任した背景には、前任者とは異なるスタイルの指揮者が求められていたこと、そしてN響事務長有馬大五郎がウィーン留学時代に築いた人脈が大きく影響していました。彼の就任は、名称変更したばかりのN響に新たな風を吹き込みました。

ヴェスのレパートリーは、主にドイツ・オーストリア系の音楽でしたが、中でもウィンナワルツの演奏は聴衆から非常に高い人気を博しました。1952年1月の特別演奏会でウィンナワルツのプログラムが大好評を博して以来、離任まで演奏会や放送で何度も取り上げられました。晩年には、ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団との来日で往年の輝きを見せました。また、ウィーンから4人の客員奏者を招き、N響のアンサンブル改善にも尽力しました。

音楽家との交流



ヴェスがN響の常任指揮者を務めていた時代は、戦後の混乱が収まり、外来音楽家が徐々に来日し始めた時期でした。ヴェスは、ヘレン・トラウベル、ゲルハルト・ヒュッシュ、ワルター・ギーゼキング、マリアン・アンダーソン、アイザック・スターンといった著名な音楽家たちと共演しました。また、レオニード・クロイツァーや、台頭著しい日本人歌手たちとも共演しています。特筆すべきは、1953年5月のベートーヴェンの歌劇『フィデリオ』全曲演奏会で、後のソニー会長となる大賀典雄と共演したことです。

さらに、芥川也寸志に弦楽のための三楽章『トリプティーク』の作曲を依頼し、1953年ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏会で初演するなど、現代音楽の分野にも貢献しました。

レコーディングと映像



ヴェスの映像記録は、N響を指揮したニュース映像(音無し)が存在します。レコーディングでは、N響との共演でクロイツァー、トラウベル、ギーゼキングとのライヴ録音や、海外オーケストラとの共演盤も残されています。特に、イヴリー・ギトリスとのパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番や、ブルックナーの交響曲第4番初稿版の世界初録音、同じくブルックナーの交響曲第9番などが有名です。また、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を指揮した音源も現在配信されています。

後世への影響



ヴェスの教え子には、大町陽一郎、伊藤栄一、三石精一などがおり、その音楽的遺産は弟子たちを通して受け継がれています。彼の音楽への情熱と、国際的な活動は、今もなお多くの音楽家や音楽ファンに影響を与え続けています。

参考文献



NHK交響楽団NHK交響楽団40年史』日本放送出版協会、1967年。
NHK交響楽団NHK交響楽団50年史』日本放送出版協会、1977年。
小川昴『新編 日本の交響楽団定期演奏会記録1927-1981』民主音楽協会、1983年
岩野裕一「NHK交響楽団全演奏会記録2・焼け跡の日比谷公会堂から新NHKホールまで」『Philharmony 2000/2001SPECIAL ISSULE』NHK交響楽団、2001年。

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