村松正俊

村松正俊：古典に通暁した文明批評家、翻訳家

村松正俊（1895年4月10日 - 1981年9月20日）は、日本の思想界に足跡を残した文明批評家、翻訳家です。政治家である父、村松恒一郎のもと東京に生まれ、文学、哲学、歴史に深い関心を抱いて育ちました。

東京帝国大学文学部美学美術史学科を1920年に卒業。在学中から文芸活動を始め、佐治祐吉、福田悌夫らと第5次『新思潮』を創刊し、1921年には『種蒔く人』の創刊にも携わりました。初期には詩人として活動し、『詩聖』同人、また『労働運動』に参加しました。古代ギリシア、ローマの文学、文化に精通していたことが、彼の思想形成に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

研究者としての側面

研究者としては、1962年に「ラテン語接続法についての若干の研究」で東洋大学文学博士号を取得。慶應義塾大学教授を1961年に定年退官後、名誉教授となり、その後も日本大学教授、東洋大学文学部長などを歴任しました。教育者として、後進の育成にも尽力したことが伺えます。

翻訳家としての功績

村松正俊の功績として特筆すべきは、翻訳家としての活動です。1971年には、シュペングラーの不朽の名著『西洋の没落』の翻訳によって日本翻訳文化賞を受賞しました。彼の翻訳は、難解な原著の内容を、日本人に理解しやすい形で提供し、西洋思想の普及に大きく貢献したと言えるでしょう。その他、プラトン、デカルト、ヴィル・デュラントなど、哲学、歴史、文学の古典的名著を数多く翻訳し、日本の読者に西洋の知を紹介しました。

著作と翻訳

著書

『羅甸語四週間』大学書林 1936
『無価値の哲学』星光書院 1949
『現在 詩集』東北書院 1962
『見失なわれた日本 現代文明批判』今日の問題社 1964
『朝酒 詩集』五月書房 1972
『村松正俊全詩集』永田書房 1982
『村松正俊著作撰集』日本詩文芸協会編 ブレイク・アート社 1985

翻訳

アルセーヌ・アレクサンドル『光の画家モネエ』中央美術社 1923
『古典劇大系 第1巻･希臘篇(1)』近代社 1925
『古典劇大系 第2巻･希臘篇(2)』近代社 1925
『古典劇大系 第3巻･羅馬篇』近代社 1926
シュペングラー『西洋の没落 第1巻』 批評社 1926、新版刊
『世界戯曲全集 第1巻（希臘篇）』近代社 世界戯曲全集刊行会 1927
ヴィル・デュラント『西洋哲学物語』アルス 1927
デカルト『方法通説 世界大思想全集 第7巻』 春秋社 1927
プラトーン『国家 世界大思想全集 第1巻』 春秋社 1928
『新興文学全集 第16巻 仏蘭西篇 第2』 平凡社 1929
『世界戯曲全集 第2巻（希臘・羅馬篇）』 同刊行会 1930
ジャン・ジョレス『仏蘭西大革命史』全8巻、大村雄治共訳　平凡社 1930-1932
キトソン『失業問題　ダグラス派経済学全集 第6』 春陽堂 1931
『フアシズモ原理 ムツソリーニ全集 第9』日本評論社 1935
フォン・ミクシュ『独英イラン争覇記 ドイツのロレンス・ヴァスムスの闘争』常木実共訳 泰山房 1940
* シュペングラー『西洋の没落 第2巻 世界史的展望』五月書房 1971


村松正俊は、その幅広い知識と深い洞察力によって、日本の思想界に多大な貢献をしました。彼の著作と翻訳は、今日においても、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

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