村田康一

村田 康一

村田 康一（むらた こういち）氏は、1936年11月27日に福岡県小倉市（現在の北九州市）で生を受けました。プロ野球の世界では、選手として、そして審判員として、そのキャリアを築きました。

選手としての歩み

地元の福岡県立小倉西高等学校を卒業後、1955年に近鉄パールス（現・大阪近鉄バファローズ）へ捕手として入団。これは、福岡県出身で当時近鉄に在籍していた原勝彦氏の誘いがきっかけでした。プロ入り当初は二軍での日々が続きましたが、地道な努力によって実力を磨き、徐々に頭角を現します。1961年には、一塁手にコンバートされた竹下光郎氏の後任として正捕手の座を獲得し、68試合で先発マスクを被るなどチームの要として活躍しました。しかし、翌1962年には移籍してきた吉沢岳男氏に定位置を譲ることになり、1964年限りで現役生活に終止符を打ちました。選手時代の背番号は、当初の1955年から1961年まで「47」、1962年から引退までの1964年は「25」でした。現役引退後も2年間は近鉄球団に残り、合宿所の寮長と二軍マネージャーを兼務し、チームを支える裏方の仕事に従事しました。

プロ野球審判員への転身

近鉄時代のチームメイトであった加藤昌利氏や斎田忠利氏の紹介を受け、村田氏は新たな道を選びます。1967年、パシフィック・リーグの審判部に入局しました。審判員としての袖番号は「28」で、これは1977年に袖番号制度が採用されてから1996年に引退するまで一貫して使用されました。村田氏以降、パ・リーグでこの番号をつけた審判はいないと言われています。

審判としてのキャリアを重ねる中で、彼はその的確かつ毅然としたジャッジによって高い評価を得ました。1990年と1991年にはパ・リーグの審判部長を務め、組織のまとめ役としても手腕を発揮。部長職を寺本勇氏に譲った後もグラウンドに立ち続け、1996年にユニフォームを脱ぎました。

プロ野球審判員としての通算出場試合数は2654試合を数えます。球界を代表する審判の一人として、オールスターゲームには5回（1975年、1979年、1984年、1987年、1996年）出場し、うち1979年第2戦、1984年第1戦、1996年第2戦では球審を務めました。また、日本シリーズにも5回（1981年、1982年、1986年、1987年、1988年）出場し、1981年第3戦、1982年第2戦、1986年第2戦、1987年第5戦、1988年第4戦ではそれぞれマスクを被り、最も責任の重い球審を担当しました。特に、1987年の日本シリーズ第5戦では、歴史ある後楽園球場で行われた最後のプロ野球公式戦で球審を務めたことでも知られています。

「ライオン審判」と称されるジャッジスタイル

村田氏は現役審判時代、「ライオン審判」という異名で親しまれました。これは、判定に対して選手などから抗議や異議が出そうになった際に、力強い大声でコールを繰り返すことで、相手に一切の反論の余地を与えないような、毅然としたジャッジスタイルが由来とされています。漫画家・水島新司氏の野球漫画でも、村田氏をモデルにしたキャラクターが登場する際には、「オレは村田だ！」という決め台詞とともに、その強気な性格が描かれています。

また、その構えにも特徴がありました。審判の身を守るためのインサイドプロテクターを比較的早い時期から導入するなど、用具への意識も高かったようです。特に球審を務める際には、ニースタンスと呼ばれる極めて低い姿勢で構えるスタイルは、彼のトレードマークの一つでした。

語り草となった「石コロ事件」

村田氏のキャリアの中で、最も有名な出来事の一つとして「石コロ事件」が挙げられます。これは1982年10月28日、西武ライオンズ対中日ドラゴンズの日本シリーズ第5戦（於：西武球場）で発生しました。0対0で迎えた3回表、中日の攻撃で二死二塁の場面、打者の平野謙氏が放った打球は、西武の一塁手・田淵幸一氏の右側を抜けていきましたが、なんと一塁塁審を務めていた村田氏の左足を直撃してしまいました。打球は跳ね返り、西武の二塁手・山崎裕之氏の目の前に転がりました。この間、二塁走者の田尾安志氏は三塁へ向かっていましたが、アクシデントに気付いて慌てて三塁へ戻ろうとしたものの、送球によってタッチアウトとなりました。記録上は平野氏の安打となりましたが、中日は先制のチャンスを逸しました。

試合後、報道陣からこのプレーについての心境を問われた村田氏は、「石コロ！」と一言だけ発したと報じられています。公認野球規則では、野手に触れなかった打球が審判員に当たった場合、そのボールはインプレーとなり、あたかもグラウンド上の石に当たって跳ね返ったかのように扱われることが定められています（現在の公認野球規則5.06(c)(6)に相当）。この言葉は、まさに規則通りの判断であり、個人的な感情を排したプロフェッショナルの姿勢を示すものとして、後に語り草となりました。

なお、このシリーズ第6戦でも、村田氏は二塁塁審として出場。中日の平野氏が二塁へ盗塁した際に、西武の二塁手・山崎氏が落球したように見えたプレーに対してアウトの判定を下しましたが、中日側の抗議の結果、判定が覆るという一幕もありました。この「石コロ事件」の影響もあり、村田氏はその後1985年まで日本シリーズの審判から外れることになりました。

その後の活動とエピソード

プロ野球界の第一線から退いた後も、村田氏は野球に携わり続けました。プロ野球マスターズリーグでは審判を務め、また、四国アイランドリーグplusでは2008年から初代審判部長として審判員の育成に尽力し、2015年4月までその職を務めました。同年5月からは審判部顧問として、引き続き若手審判の指導にあたっています。

エピソードとして、元日本ハムファイターズ投手の岩本勉氏がしばしば語る話があります。ある試合で、相手打者が放ったポールの上を遥かに越える特大の打球に対して、ホームランと判定を下した村田氏に対し、日本ハム監督（当時）の上田利治氏がファウルではないかと抗議しました。その際、村田氏は「あれだけ飛べば、間違いなくホームランだ！」と一蹴したといい、岩本氏が現在のホームランのビデオ判定に関する話題に触れる際にしばしば引き合いに出しているエピソードです。また、2014年11月13日には、ABCラジオの番組『武田和歌子のぴたっと。』内のコーナー「福本豊のあの人は今 元・プロ野球選手名鑑」にゲスト出演するなど、メディアにも登場しています。

選手として、そして特に審判員として、野球界に大きな足跡を残した村田康一氏。その厳格なジャッジと個性的なキャラクターは、多くのファンや関係者の記憶に刻まれています。

もう一度検索