杜聡明

杜聡明（と そうめい）

杜聡明（1893年8月25日 - 1986年2月25日）は、台湾出身の医学者であり、台湾人として初めて医学博士号を取得した人物です。字は思牧。台湾の医学発展に大きく貢献し、その功績から従四位勲三等の位を授与されました。

経歴

幼少期から学生時代

1893年、清朝統治下の台湾・淡水（現在の新北市淡水区）で生まれました。9歳から車埕書房で学び、11歳で滬尾公学校に入学。寄宿生活を送りながら17歳で首席卒業を果たしました。1909年には台湾総督府医学校に首席合格するも、体格検査で本来は不合格となるところを、校長・長野純蔵の計らいで入学が認められました。在学中も学業は常にトップで、体操、水泳、登山にも励み、心身を鍛えました。また、清朝腐敗に対する革命運動が活発化すると、1910年に同級生と共に中国同盟会に加入。大学内に台湾通訊處が設立されると、孫文が派遣した通訊員を通じて、杜聰明や蔣渭水らも入会しました。1913年には、袁世凱暗殺計画に参加するため、同級生と共に北京へ渡りましたが、これは失敗に終わりました。1914年、台湾総督府医学校を首席で卒業。

日本留学と研究活動

卒業後、医学校校長の協力で1915年から日本に留学。京都帝国大学医学部で内科と薬理学を専攻しました。当初、公費留学の誘いがありましたが、条件に縛られるのを嫌い、私費留学を選びました。1916年には中華革命党に入党。1921年に台湾に戻り、台湾総督府医学専門学校の講師に就任。翌年には教授となりました。1922年5月には林双隨と結婚。同年12月、京都帝国大学で医学博士号を取得し、台湾人初の医学博士となりました。1928年には『台湾民報』で漢方医学の研究方法に関する論文を発表し、医学界から注目を集めました。1937年、台北帝国大学医学部教授に就任し、薬理学講座と薬理学教室を担当しました。1944年には『薬理学概要』を出版しています。戦時中に日本名を強要された際には、これに従いませんでした。

太平洋戦争後

太平洋戦争終結後、1945年12月に国立台湾大学が発足すると、医学部部長および熱帯医学研究所所長に就任。1946年には台湾医学会会長に選出されました。また、同年には国民党に入党し、台湾省科学振興会理事長にも就任しました。しかし、1947年の二・二八事件前に、大学校長によって医学部部長などを罷免されます。この解任に対して医学部の多くのスタッフが抗議し、事件後に復帰を果たしました。1948年には医学部部長と学長代理を兼任しましたが、1949年に学長職は傅斯年に引き継がれました。傅斯年とは医学教育の方針で意見が対立し、1953年に医学部長を辞任しました。

高雄医学院時代

1953年7月に台湾大学を辞職後、1954年に「高雄医学院」（現在の高雄医学大学）を開設し、1966年に退官するまで院長を務めました。

研究内容・業績

「楽学至上，研究第一」を座右の銘とし、生涯を医学発展に捧げました。戦前戦後を通じて台湾医学界の形成に尽力し、特にアヘンやモルヒネ、毒蛇の研究において顕著な功績を挙げました。減量弁毒療法や尿検査法の確立、蛇毒成分からの鎮痛剤抽出、赤痢特効薬の開発など、薬理学分野で特に多くの業績を残しました。

家族

夫人：林雙隨は霧峰林家出身で、日本留学後、青山女学院を卒業。音楽教師として活躍しました。
三男：杜祖健は化学者で、毒物学を専攻し、コロラド州立大学名誉教授や千葉科学大学教授を務めました。

著作

『薬理学概要』

共編著

『杜林雙隋女士追思録』編、杜聡明博士徳配林夫人治喪委員会 1969

参考文献

『台湾中西医学結合先駆:杜聡明教授』蘇奕彰・胡展榕著 花木蘭文化事業 2021年
『中国名医列伝：呪術・漢方・西洋医学の19人』吉田荘人著, 中公新書 1992年.
* 『砂に書かれた記録 39、40』森於菟著『父親としての森鴎外』所収）筑摩書房 1969年.

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