杭皇后

杭皇后は、明の時代、景泰帝の二番目の皇后として知られています。彼女は庶民である杭昱の娘として生まれ、その出自は決して高貴なものではありませんでした。しかし、彼女は美しく聡明であり、その魅力で後の景泰帝となる郕王朱祁鈺の目に留まり、側室として迎え入れられました。

杭氏は、朱祁鈺との間に男児、朱見済をもうけました。この頃、明は土木の変という大きな危機に見舞われます。皇帝であった英宗が捕虜となるという異常事態の中、朱祁鈺が皇帝に即位し、景泰帝となりました。それに伴い、杭氏は妃としての地位を得ます。

景泰3年（1452年）、景泰帝は、甥である皇太子朱見深（後の成化帝）を廃し、実子である朱見済を皇太子に立てようと画策しました。この動きに対して、当時の皇后であった汪氏が反対したため、景泰帝は激怒し、汪氏を廃后しました。そして、杭氏が新たに皇后として立てられることになりました。この時、彼女の父である杭昱は、正三品の指揮使に封じられました。しかし、この栄華は長くは続きませんでした。翌年、皇太子に立てられた朱見済は夭折してしまいます。

景泰7年（1456年）2月、杭皇后自身も崩御しました。彼女には、死後、粛孝皇后という諡号が贈られました。しかし、この静穏もつかの間でした。

その後の奪門の変によって、かつて廃位された英宗が再び皇帝の座に就き、景泰帝は失脚しました。英宗は、かつて自分の息子である朱見深が廃太子されたことを恨み、杭氏に対する復讐を始めます。英宗は、杭氏の皇后としての地位を剥奪し（追降）、生前の諡号を剥奪しました。さらに、彼女の陵墓を暴き、杭氏の親族までも貶めました。このように、杭皇后は、その死後においても、権力闘争の波に翻弄されることとなりました。

杭皇后は、その生涯において、庶民から皇后という栄華を極める一方で、権力闘争の犠牲となり、悲劇的な結末を迎えた人物と言えるでしょう。彼女の短い生涯は、明代の宮廷における権力闘争の激しさを示す象徴的な出来事として、歴史に刻まれています。

子女
朱見済（懐献太子）

参考文献
『明英宗実録』
『明史』

登場作品
テレビドラマ『女医明妃伝〜雪の日の誓い〜』（2016年、演：リウ・シーシー）
※作中では、談允賢をモデルとした譚允賢と同一人物に設定されています。

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