東京少年少女

角松敏生『東京少年少女』：架空のミュージカルが奏でる多様な音楽性

2019年4月3日にリリースされた角松敏生の22作目のスタジオアルバム『東京少年少女』は、単なる音楽作品にとどまらず、聴く者の想像力を刺激する、ユニークなコンセプトで制作された作品です。

舞台作家との出会いから生まれたコンセプト

このアルバムは、「架空のミュージカル・サウンドトラック」というコンセプトに基づいて制作されました。その発端は、角松敏生と舞台作家KOUTA（大塚幸太）氏との出会いです。2人は親交を深める中で、「東京少年少女」という物語をテーマに、音楽を主軸とした舞台作品を構想することになります。角松氏が長年目指してきた「大衆音楽のライブが持つ即興性を中心に音楽ライブが物語やメッセージのメタファーを行うエンターティメント」という理想と、「東京少年少女」の物語が重なり合い、このアルバム制作へと繋がっていったのです。

ビッグバンドからブラス・ファンク・ロックへ

当初、KOUTA氏は吹奏楽部の物語という構想からビッグバンドをイメージしていました。角松氏も当時、アロージャズ・オーケストラとのコラボレーションを通してビッグバンドの可能性を探求していた時期でした。その探求の過程として、2018年にはアルバム『Breath From The Season 2018〜Tribute to TOKYO ENSEMBLE LAB〜』を発表しています。しかし、実際にビッグバンドでの演奏を試みた結果、KOUTA氏が思い描く舞台構成を実現するにはハードルが高いと判断。そこで、管楽器の編成を少なくした、ブラス・ファンク・ロック的なアプローチが最適であるという結論に至りました。

アルバムからの舞台化とMILADへの発展

アルバム発売時点では架空のミュージカルだった「東京少年少女」ですが、その後、舞台化が決定。2020年2月には渋谷区文化総合センター大和田で3日間にわたる公演が行われました。KOUTA氏が原案・脚本・作詞・演出、角松氏が音楽・作詞・音楽監督を担当し、アルバムの世界観が現実の舞台へと昇華されました。また、2021年6月には横浜アリーナで開催された角松氏のデビュー40周年コンサートにおいて、「東京少年少女」を基にした「東京少年少女異聞」が、「MILAD（Music Live Act ＆ Dance）」のプロトタイプとして上演されました。

楽曲の魅力：多様な音楽性と豪華メンバー

アルバム収録楽曲は、シェイクスピアの「ハムレット」からの引用句をタイトルにした「to be or not to be」や、レゲエ調の「恋ワズライ」、そしてタイトル曲「東京少年少女」など、多様な音楽性で構成されています。参加ミュージシャンも豪華で、本田雅人氏、山本真央樹氏、吉沢梨絵氏、小此木まり氏など、日本の音楽シーンを代表する実力派アーティストが名を連ねています。さらに、ミュージカルを目指す高校生や小学生など、若い世代の歌声も取り入れられており、世代を超えたコラボレーションが実現しています。特に「to be or not to be」では、タワー・オブ・パワーやブラッド・スウェット＆ティアーズを思わせるブラスアレンジが聴きどころです。また、「大人の定義」では、変声期前の子供たちの歌声を通して、子供たちの心の叫びを表現しています。「東京少年少女」では、マオリのハカを思わせるラップやゴスペル的な展開など、ポップスの様々な要素が巧みに融合されています。

『東京少年少女』は、単なるアルバムを超えた、角松敏生氏の創造性と表現力の集大成と言えるでしょう。 音楽、舞台、そしてライブパフォーマンスという異なる表現方法を融合させたこの作品は、今後も音楽史における重要な位置を占める作品となるに違いありません。初回限定盤には、ボーナストラックとして、過去の楽曲のリミックスやライブ音源が収録されているのもポイントです。これらの楽曲は、角松氏の音楽遍歴の深さと幅広さを改めて感じさせてくれるでしょう。 そして、隠しトラックの存在も、この作品が持つ遊び心と、探求心を感じさせる、魅力の一つと言えるでしょう。

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