東京都交通局10-000形電車

東京都交通局10-000形電車は、都営地下鉄新宿線で運用された通勤形車両です。この形式は、ハイフンを除いて「いちまんがた」と呼ばれていました。1971年に最初の試作車が登場し、その後の新宿線開業と延伸、輸送力増強に合わせて1978年から1997年にかけて量産が進められました。最終的に8両編成28本、総計224両が製造され、長年にわたり新宿線の輸送を支えました。

車両の構造と特徴

長期にわたり製造されたため、製造時期によって車両には様々な差異が見られます。共通する特徴としては、20m級で片側4扉の車体構造が挙げられます。車体は当初、内部構体に普通鋼を用いたセミステンレス構造でしたが、製造が進むにつれてオールステンレス構造へと移行しました。座席は全車がロングシートで、側扉の窓ガラスは金属支持方式が採用されています。計画段階から冷房搭載または準備が考慮されており、当時の地下鉄車両としては屋根や天井が高く設計されました。客室の床面には、主電動機の点検に用いるトラップドアが設けられています。

運転台はT型のワンハンドルマスコンで操作し、力行4段、常用ブレーキ7段、非常ブレーキ1段の制御が可能でした。運転状況表示システム（TNS装置）のモニターは、当初運転デスクにありましたが、京王線への乗り入れに伴うATC導入により、運転台後部へ移設され、その跡には京王ATC関連の表示灯が設置されました。速度計は初期の黒地から、デジタルATC対応改造車では白地のものに変更されています（いずれも最大目盛は140km/h）。

乗務員室と客室を隔てる仕切りには窓があり、運転席の反対側は二段窓となっています。これらの窓には遮光幕が備えられていました。モニタ移設後、運転席背後の窓は化粧板で覆われています。

走行装置においては、試作車と初期の量産車（1～7次車）では電機子チョッパ制御が用いられましたが、最終増備の8次車ではGTOサイリスタ素子によるチョッパ制御が採用されました。台車は円筒案内式の空気ばね付き台車（T-10, 10A型）が採用され、近畿車輛製のシュリーレン式台車が多くを占めましたが、一部に日本車輌製造製も存在します。

保安装置は、新宿線用のデジタルATCと京王線用のATSに加え、京王線でのATC導入に合わせて京王ATCも搭載しました。京王線で使用するSR無線アンテナの形状も、機器更新に合わせて変更されています。

製造時期による主な変遷

試作車（1971年）: 4両が製造され、当初は三田線で試験運用されました。狭軌対応台車を装着して落成しましたが、新宿線開業前に標準軌対応台車への交換や量産化改造、一部車両の改番が行われ、新宿線へ転属しました。当時の先端技術（ATO準備、地図式案内表示器など）が試験的に導入されました。
1・2次車（1978年, 1980年）: 新宿線の部分開業に合わせて量産が始まりました。6両編成で登場し、試作車と同様のセミステンレス車体、二段窓が特徴です。前面はFRP製の額縁スタイルに変更され、側面表示器の位置も移動しました。冷房は準備工事とされました。これらは後年の車両置き換えにより、早期に廃車されています。
3次車（1986年）: 新宿線の延伸に備えて製造されました。このグループから軽量オールステンレス車体が採用され、側窓が一段下降窓に変更されました。製造当初から8両編成で登場したほか、既存編成の8両化用の中間車も製造されました。戸閉機械（ドアエンジン）や表示灯類も仕様変更が行われ、補助電源がSIV化されるなど、機器面での近代化が進みました。一部の中間車は後に10-300R形へ転用されています。
4～6次車（1988年頃）: このグループから冷房装置が本格的に搭載されました。既存編成にも順次冷房が搭載されるようになりました。一部の中間車は3次車と同様に10-300R形に転用されています。4次車と6次車の一部編成は後年に更新工事を受けました。
7次車（1992年）: 車体前面と側面に東京都シンボルマークが製造時から設置され、車両番号の位置や表記色も変更されました。種別・行先表示器はLED化され、車内の化粧板や座席モケットの色調も変更されました。車椅子スペースが設置され、つり革の形状も変化しました。自動放送装置や案内表示器も搭載されています。2004年には正面にスカートが取り付けられました。
8次車（1997年）: 本形式における最終増備グループです。側面のコルゲートがビードプレスに変更され、外観がよりすっきりしました。前面形状も変更され、他の形式との類似性も見られます。車内案内表示器も三田線6300形に類似したLED式になりました。日本の鉄道車両において、新規製造でチョッパ制御を採用した最後の形式の一つとされています。登場当初は広告貸切列車として運用されました。

編成と番号付与

本形式の基本的な編成は8両（電動車6両・付随車2両）で組成されました。車両番号は「形式-編成番号下2桁+編成内順位」という規則で付与されました。編成内順位の数字は、本八幡方から0, 1, 2, 5, 6, 7, 8, 9が用いられ、3と4は将来の10両化を想定して欠番とされましたが、本形式での10両運転は実現しませんでした。

導入後の変化と引退

1990年代後半頃からは、初期製造車両を中心に大規模な更新工事（B修繕）が実施されました。これにより、車椅子スペースの設置、内装の変更、座席モケット・床材の張り替えなどが行われました。後期更新車では、行先表示器のLED化と側面表示器の移設、車内案内表示器や自動放送装置の新設といった改良も施されました。また、一部編成では窓部分に特殊な素材の車体広告が実施されたこともあります。

初期車両の老朽化に伴い、2004年からは後継形式である10-300形の導入が開始されました。初期のセミステンレス車体を持つ車両の一部は、新しい先頭車と組み合わされて10-300R形としてリニューアルされましたが、多くは順次廃車されていきました。置き換え計画が進み、2013年度には3次車、2016年度には4・6次車が、2017年度には7次車以前の車両が全て運用を終えました。最後まで残った8次車も2018年 2月11日をもって営業運転を終了し、10-000形は形式消滅となりました。これにより、東京都交通局が保有する全ての鉄道車両がVVVFインバータ制御車となりました。

多くの車両が解体されましたが、一部車両の先頭部が静態保存されています。

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