東周列国志

『東周列国志』は、清代の蔡元放によって改編された長編歴史小説であり、全23巻108回で構成されています。中国では、明代の『三国志演義』と並び称されるほどの人気を誇ります。物語は、西周が滅亡寸前の紀元前789年から始まり、紀元前221年に秦の始皇帝が中国を統一するまでの約500年間、東周時代の諸侯国の興亡を描いています。

この物語は、『春秋左氏伝』、『国語』、『戦国策』、『史記』といった歴史書を基に構成されていますが、あくまでも演義小説として書かれており、史実とは異なる部分も含まれています。しかし、その物語の面白さは『三国志演義』にも匹敵すると言われています。ただし、日本での普及度は『三国志演義』ほどではなく、完訳も存在せず、佐藤春夫による翻案短編小説がある程度です。陳舜臣の回想によると、戦前の華僑の家庭では『三国志演義』は一般的でしたが、『東周列国志』はあまり見られなかったそうです。

『東周列国志』の成立過程を辿ると、元代に成立した「列国もの」の平話が原点にあります。明代には、余邵魚によって『列国志伝』が書かれ、その後、馮夢竜が『新列国志』として改訂。さらに、清代に蔡元放が『東周列国志』として現在の形にまとめました。

文字数においても、『東周列国志』は『三国志演義』を上回っています。『東周列国志』は92万字であるのに対し、『三国志演義』は71万7千字と、『東周列国志』の方がより多くの文字数で、詳細に物語が描かれています。

物語のあらすじは、西周末期の幽王の失政によって異民族が侵入し、西周が滅亡するところから始まります。その後、幽王の子である平王が都を洛邑に移し東周が始まりますが、周王朝の権威は失墜し、諸侯国が力を持ち始めます。ここから、春秋時代が幕を開け、斉の桓公、宋の襄公、晋の文公、秦の穆公、楚の荘王といった「春秋の五覇」と呼ばれる覇者たちが次々と登場します。さらに、呉の闔閭や越の勾践といった覇王も現れます。

しかし、諸侯国の内部では家臣が力を持ち始め、主君を倒して自ら諸侯となる者も現れました。晋の有力家臣であった魏氏、韓氏、趙氏の三氏が代表的な例で、彼らが晋を三分し、紀元前403年にそれぞれ独立国として周王室に認められたことで、戦国時代が始まりました。再編された諸侯国の中で、韓、趙、魏、楚、燕、斉、秦が「戦国の七雄」と呼ばれます。

戦国時代初期には魏、趙、斉が優勢でしたが、次第に衰退していきました。一方で、西方辺境の地に位置していた秦が、商鞅の改革などを経て力を増し、他の六国を圧倒するようになりました。他の六国は連合して秦に対抗しようとしますが、利害が衝突して協力体制は崩壊。秦は各個撃破し、最終的に秦王・政（後の始皇帝）が中国を統一しました。

『東周列国志』は、その壮大なスケールと、登場人物たちの複雑な人間関係、そして春秋戦国時代の激動する社会情勢を生き生きと描き出し、読者を古代中国の世界へと引き込みます。

目次の一部を紹介すると、以下のようになります。

第1回 周宣王聞謡軽殺 杜大夫化厲鳴冤（周の宣王が童謡に怒り物売りを殺し、杜大夫が亡霊となって無実を訴える）
第3回 犬戎主大鬧鎬京 周平王東遷洛邑（犬戎の王が都を騒がし、周の平王が東の洛邑に遷都する）※春秋時代の始まり
第84回 智伯決水灌晋陽 豫譲撃衣報襄子（智伯が晋陽を水攻めにし、豫譲が趙襄子のために敵討ちをする）※戦国時代の始まり
第108回 兼六国混一輿図 号始皇建立郡県（六国を併合して一国とし、秦王・政が始皇帝を名乗り、郡県制を確立する）

また、『東周列国志』を題材としたテレビドラマも制作されています。中国中央電視台が制作した『東周列国』は、春秋篇と戦国篇の2部構成で、日本語字幕付きDVDも販売されており、映像でその世界を楽しむこともできます。

『東周列国志』は、その歴史的な背景や人間ドラマを通じて、古代中国の文化や歴史を深く理解するための貴重な資料です。

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