東大駒場騒動

東大駒場騒動

東大駒場騒動は、1987年から1988年にかけて東京大学教養学部で発生した、新任教官の人事を巡る対立・紛争事件です。この騒動は、当時教養学部に所属していた教官たちの間で、人事選考を巡って意見が対立し、大きな混乱を招きました。騒動の関係者の一人である中沢新一氏の名前から「中沢事件」「中沢問題」とも呼ばれることがありますが、騒動の当事者はあくまで当時の東京大学教養学部の教官たちであり、中沢氏自身ではありません。東大駒場とは、教養学部が東京都目黒区駒場に位置することから、この名称で呼ばれています。

経緯

1987年、東京大学教養学部社会思想史研究室の主任教授であった谷嶋喬四郎氏が、ポストモダン思想を専門とする人材の採用を検討し始めました。谷嶋教授は、同じ教養学部の教授である西部邁氏に相談し、西部氏は当時東京外国語大学に所属していた中沢新一氏を推薦しました。その後、西部氏を含む複数の教員で構成される「相関社会科学入門・社会思想史」作業班（タスクフォース）が組織され、選考が開始されました。

選考開始当初、西部氏が中沢氏の人事案について事前に意見を求めた社会科学科の24名の教員のうち、反対したのは折原浩教授1名のみでした。しかし、同年7月、谷嶋教授は理由を明示しないまま中沢氏の採用に反対し、代わりに「F」という人物を推薦しました。作業班による選考の結果、候補者は西部氏が推す中沢氏と谷嶋氏が推す「F」の2人に絞られました。しかしその後、谷嶋教授は「F」との面接後に明確な理由を説明することなく、それまでの選考過程を無視し、一度は候補から外れていた山脇直司氏を推すと言い出しました。この谷嶋教授の態度に、一貫して中沢氏を支持していた西部氏をはじめとする他の作業班メンバーは強く反発し、対立が激化しました。また、菊地昌典氏も谷嶋教授と共に反対派を率いました。

同年8月以降、谷嶋教授が連絡を絶ったため、人事選考は機能不全に陥り、混乱が拡大しました。同年10月、人事委員長の佐藤誠三郎教授は、事態を収拾するため、「社会思想史」と「相関社会科学入門」の2つの作業班に分割するという妥協案を示しました。この案は社会科学科内で可決され、同年11月19日には山脇氏の人事が教授会で可決されました。11月26日には、中沢氏の人事案も人事委員会と社会科学科内で全会一致で可決されました。しかし、翌年になると、学科間の感情的な対立が表面化し、再び混乱が生じました。

中沢氏の人事案を支持していた社会科学科長の溝田宗介氏は、中沢氏の人事支持を表明する文書と、佐藤誠三郎教授不支持を理由に科長を辞任する旨を記した2通の文書を学部内に配布し、科長を辞任しました。この溝田氏の行動は、人事案の提案母体である社会科学科内の意見の不一致を学部内に印象付け、人事案否決の流れを決定づけました。結果として、中沢氏の人事案は教養学部発足以来初めて教授会で否決されることとなりました。この事態に抗議して西部氏は辞任しました。西部氏は、この一連の騒動を「東大の馬鹿騒ぎ」と表現しました。

この騒動は、当時のメディアでも大きく報道され、社会的な関心を集めました。騒動の詳細については、後に西部氏が著作にまとめています。

関連事項

2017年には、藤田医科大学の宮川剛氏を教授に採用する人事に関して内定取り消し事案が発生しました。東京大学教養学部において、人事委員会の決定が覆されたのは、この駒場騒動以来2回目となりました。

脚注

[高田里惠子 2005 『グロテスクな教養』ちくま新書]

[見田宗介 1989「孤独な鳥の条件　中沢新一人事の祭りの決算」『朝日新聞』4月19日]

[西部邁 1989 『学者－この喜劇的なるもの－』草思社]

[西部邁 1988 『剥がされた仮面－東大駒場騒動－』文藝春秋]

[村上陽一郎 1988 「東大「中沢問題」を考える:既成の「学問」の空洞からの脱出を」『Asahi Journal』30(17)]

[『噂の真相』10巻6号（通巻111号、1988年6月号）特集1:東大“中沢新一問題”に関し「全共闘系文化人」を直撃！]

[山脇直司 2013 「〈駒場をあとに〉西部劇から四半世紀の想い出と所感」『教養学部報』554号、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部ホームページ]

関連項目

東京大学大学院総合文化研究科・教養学部

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