東山御文庫

東山御文庫：皇室の秘宝が眠る場所

東山御文庫は、京都市上京区、京都御所の東北隅に位置する皇室の文庫です。禁裏御文庫、東山文庫とも呼ばれ、歴代天皇の宸翰（しんかん、直筆の書）や、天皇が収集・愛用した書画、道具など、約6万点もの貴重な品々が収蔵されています。

概要：勅封の文庫

現在、東山御文庫は奈良・正倉院の西宝庫と同様に勅封（ちょくふう、天皇の命令によって封印されていること）の扱いとなっており、宮内庁侍従職が管理しています。一般公開はされておらず、秋の曝涼（ばくりょう、所蔵品の虫干し）の際に、専門家を対象とした特別な調査が許可されるのみです。

しかし、近年では書陵部によるマイクロフィルム化、東京大学史料編纂所による写本化が進められており、内容の一部が公開されるようになりました。2016年以降は、東京大学史料編纂所図書室の閲覧用端末にて、画像として参照できる書も存在します。

「東山」という名称は、近衛邸内にあった「東山の御庫（みくら）」と称する土蔵が、1881年に近衛忠煕（このえ ただひろ）から献上・移設され、文庫の施設として利用されたことに由来します。足利義政の東山殿や東山天皇との直接的な関連はありません。

歴史：幾多の火災を乗り越えて

皇室には古代から様々な書籍が伝えられてきましたが、応仁の乱や戦国時代の経済的衰微によって多くが失われました。その後、後陽成天皇・後水尾天皇が社会の安定化を受けて収集に尽力しましたが、承応2年（1653年）の内裏火災により、文庫もほぼ全焼してしまいます。

この事態を憂慮した後西天皇・霊元天皇は、京都の公家や寺社に要請し、和歌・物語・日記・記録・有職故実（ゆうそくこじつ、儀式や制度に関する知識）・公事関連書・社寺文書類などの精度の高い写本を作成しました。さらに、貴重な典籍を謄写（とうしゃ、書き写すこと）して副本を作成し、別の場所に保管することで亡失を防ごうとしました。

万治4年（1661年）の再度の内裏火災で、残された蔵書の多くが焼失しましたが、別に安置された副本は被害を免れました。この経験から、歴代天皇は貴重書の収集とその副本作成に尽力し、副本を納める倉庫を充実させました。これが後の東山文庫の始まりです。

貴重書の収集・副本作成の作業には、天皇自身も深く関与し、宸筆によって本文や外題が記されたものも多く存在します。蔵書印には、後西天皇（「明暦」）、東山天皇（「元禄」）、桜町天皇（「延享」）、後桜町天皇（「明和」）など、在位中の元号を用いたものや、「皇統文庫」という統一印を用いる例（後西・桜町・孝明天皇）などがあります。孝明天皇のように、「統仁」、「此華」、「天淵」などの独自の蔵書印を作成する天皇もいました。

東京奠都（とうきょうてんと、首都が東京に移されたこと）後、内裏の蔵書の一部は新御所の設置された東京城に移され、さらに宮家創設時に分与された例もあります（ただし、分与を受けた宮家は後に全て断絶し、蔵書は宮内庁書陵部や国立歴史民俗博物館に移されました）。その後、近衛家の東京移住に伴い、近衛邸内の東山の御蔵が献上され、残された文庫の保管に用いられたため、その名前がそのまま文庫名となりました。

東山御文庫は、皇室の歴史と文化を今に伝える貴重な宝庫であり、その存在は日本の文化史において重要な意味を持っています。

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