東急バス弦巻営業所

東急バス弦巻営業所（略号：T）は、東京都世田谷区弦巻四丁目に所在し、主に世田谷区内の東急バス路線を管轄する重要な営業所です。営業所の正面には世田谷区の教育センターや中央図書館があり、「弦巻営業所」停留所には「教育センター・中央図書館前」という副名称が付けられています。ここを発着するのは、弦巻線（渋05）、深沢線（黒07・都立01）、および小山線（反11）の出入庫便が中心です。少し離れた最寄り停留所としては、世田谷通り沿いの「松が丘交番前」があり、徒歩で約5分ほどの距離にあります。現在の事務所棟と整備工場は、2008年から2009年にかけて建て替えられました。

沿革

営業所は1959年（昭和34年）3月3日に開設されました。これは、現在の東京急行電鉄体制になってから2番目の増設営業所であり、世田谷区内に設けられた3番目のバス拠点です。終戦から時間を経て、戦時中に休止された路線が全て復旧した後の開設ですが、その所管路線の基礎は戦前にさかのぼります。

世田谷通りのバス運行は、1925年（大正14年）の玉川電気鉄道支線（世田谷線）開通後、上町以遠の公共交通を補完する形で始まりました。当初は八木哲率いる世田谷乗合自動車が三軒茶屋から世田谷通りを調布町方面へ向かう路線を展開。これに玉川電気鉄道が1927年（昭和2年）にバス事業で参入し、渋谷方面への路線を開設しました。やがて八木哲は事業を玉川電気鉄道に売却し、玉電は引き継いだ路線と自社路線を運営するため、世田谷営業所を設置しました。この世田谷営業所は、1932年（昭和7年）に開設されたピー・シー・エル映画製作所（現：東宝スタジオ）へのアクセスを担う路線の基礎も築きました。

1938年（昭和13年）に玉川電気鉄道が東京横浜電鉄と合併し、その後大東急体制となっても世田谷営業所は維持されましたが、戦時中に一部路線が休止。終戦前後に主要路線を失ったことから世田谷営業所は廃止され、淡島営業所に統合されました。このため、玉電以来の歴史を持つ世田谷営業所の流れは淡島営業所が引き継ぎ、弦巻営業所は新たに開設された拠点と言えます。

淡島営業所のもとで、戦後、東京農業大学や国立世田谷病院（現：国立成育医療研究センター）へのアクセス確保のため、休止されていた路線が再開。この際に小田急線成城学園前駅への乗り入れが実現し、現在の成城線の原型ができました。1951年（昭和26年）には小田急バスとの共同運行も開始されています。

世田谷区の都市化と人口増加に伴い、区内路線の新設が相次ぎ、淡島営業所だけでは対応が困難になりました。隣接する目黒区の営業所も同様の状況となり、東急は新たなバス拠点を世田谷区内に設ける必要に迫られます。1956年（昭和31年）に瀬田営業所が開設されたのに続き、1959年（昭和34年）3月3日、弦巻に営業所が開設されました。開設と同時に、既存路線の停留所名が「弦巻営業所」に改称されています。

営業開始にあたり、淡島営業所から成城線・国領線・経堂線、瀬田営業所から学校線・弦巻循環線、不動前営業所から駒沢線が移管されました。その後も上町線や千歳線などを新設し、近隣営業所との調整を図りながら世田谷区を中心に路線網を拡充していきました。1970年代から80年代にかけては、調布線の廃止など長距離路線の整理が進む一方、1984年（昭和59年）の駒沢営業所廃止に伴い、東急コーチ自由が丘線や祖師谷線を引き継いでいます。

1999年（平成11年）頃からは、東急トランセへの管理委託化が進められました。2000年（平成12年）に祖師谷線が最初に委託化されたのを皮切りに、弦巻線、千歳線、上町線、成城線などが順次委託化され、2002年（平成14年）には松陰線、小山線、渋谷空港線も移管・委託化されました。最後まで直営だった深沢線も2007年（平成19年）に再移管され、委託路線となりました。約24年間続いたトランセ委託は、2024年（令和6年）3月31日をもって終了し、翌4月1日からは全路線が再び東急バス直営での運行となっています。

現行路線（主要なもの）

現在、弦巻営業所が担当する主な路線は以下の通りです。

弦巻線（渋05）: 渋谷駅と弦巻営業所を結ぶ路線。経路は一部往復で異なります。かつては循環線として運行され、その後分割・統合を経て現在の形になりました。駒留通りの渋滞回避のため、一部経路が環状七号線経由に変更されています。
松陰線（渋21, 渋22, 渋23）: 渋谷駅から三軒茶屋、上町を経由し、桜小学校、用賀駅、祖師ヶ谷大蔵駅方面へ向かう路線群。渋21は玉川線廃止代替、渋23は旧称「千歳線」として開設された歴史を持ちます。渋22は旧上町線の一部経路を引き継いで新設されました。上町以遠で世田谷線と並行しますが、渋谷駅への乗り換えなし需要や、沿線学校への通学輸送、自衛隊基地や馬事公苑への通勤輸送を担います。
松蔭線（渋24）: 渋谷駅と成城学園前駅西口を結ぶ、三軒茶屋経由の幹線です。かつて成城線として親しまれ、戦前の東宝線にルーツを持ちます。小田急バスとの共同運行を経て、2023年7月1日からは東急バス単独運行となり、松蔭線に編入されました。沿線には多くの大学や病院があり、重要な輸送ルートとなっています。
深沢線（黒07, 都立01等）: 目黒駅または都立大学駅北口と弦巻営業所を結ぶ路線。元は学校線の一部で、1999年に独立し目黒営業所に移管されましたが、2007年に弦巻へ再移管されました。目黒通りでの都市新バスシステム導入など、経緯が複雑な路線です。一部区間は往復で経路が異なります。土曜に用賀駅方面への免許維持路線も存在します。
祖師谷線（等11, 等13）: 等々力操車所を起点とし、等11は桜小学校（出入庫）、等13は梅ヶ丘駅を結びます。等11はかつて五反田駅を結んだ大橋線に源流を持ち、駒沢営業所を経て弦巻に移管されました。等13は比較的新しい路線で、東急バスとして初めて梅ヶ丘駅に乗り入れた系統です。
小山線（反11, 反12, 渋52）: 五反田駅や世田谷区民会館を起点とし、武蔵小山駅、学芸大学駅などを経由する路線群。反11は五反田駅から世田谷区民会館へ、反12は学芸大学駅から東京医療センターへ向かいます。元は目黒営業所の管轄でしたが、2002年に弦巻に移管されました。渋52は旧若林百貨店循環線と統合し、2015年に弦巻へ復帰した系統で、世田谷区民会館と渋谷駅を循環します。
環七線（森91）: 大森操車所から環状七号線の大部分を走行し、新代田駅前へ至る長距離路線。かつて都営バスとの共同運行路線として開設され、複数の営業所を経て2014年に弦巻に移管されました。鉄道空白地帯や複数の鉄道路線を結ぶ役割を担っています。
三軒茶屋線（黒06）: 目黒駅と三軒茶屋駅周辺を循環運行する路線。戦前の目黒自動車運輸の路線にルーツを持ち、長らく目黒営業所が担当しましたが、下馬営業所を経て2014年に弦巻に移管されました。沿線には多くの学校があり、通学輸送に貢献しています。三軒茶屋駅付近は循環経路となっています。
* エビス線（恵32）: 恵比寿駅と用賀駅を結ぶ路線。駒沢通りを経由します。過去には様々な系統が存在し、幾度かの経路変更や分断を経て現在の形となりました。瀬田営業所や下馬営業所の担当を経て、2022年に弦巻営業所に移管されました。沿線は交通需要が高く、朝の通勤時間帯は特に混雑します。

廃止・移管路線（一部）

弦巻営業所は多くの路線の変遷を経験しており、過去には駒沢線、経堂線、高速渋谷線、調布線、コーチ自由が丘線、上町線、学校線、空港路線などを担当していました。これらの路線は、他の系統への統合、区間短縮、共同運行相手との解消、あるいは他の営業所への移管などにより、その役割を終えたり、担当が変わったりしています。

車両

弦巻営業所には、いすゞ自動車、UDトラックス、日野自動車、三菱ふそう、そしてBYDの合計5メーカーの車両が配置されています。一般路線車は、大型車が主に松陰線、中型ロング車が弦巻線や環七線、中型車が祖師谷線や小山線、三軒茶屋線などで使用されています。特に中型ロング車の配置が多いのが特徴です。いすゞや日野のハイブリッド車も導入されています。かつては空港路線用の高速バス車両も配置されていましたが、現在は他の営業所に移管されています。近年はノンステップバスが主力となっています。2014年からは、世田谷区のご当地ナンバーである「世田谷ナンバー」の車両も導入されています。2024年3月には、初の電気バスとしてBYD製のK8が導入されました。

地理的には、営業所の地下を蛇崩川が流れており、東急バス目黒営業所の近くを流れる六畝川と同様、特定の地理的特徴を持つ場所に位置しています。

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