東急3600系電車

東急3600系電車：戦後復興期の象徴

東急3600系電車は、第二次世界大戦後の混乱期に、東京急行電鉄（現：東急電鉄）が戦災で損傷した旧国鉄の車両を譲り受け、復旧・改造して誕生させた通勤形電車です。この系列は、東急3000系電車の一員として、当時の社会情勢を色濃く反映した存在でした。

生い立ちと特徴

1948年（昭和23年）から、戦災で焼失・損傷した旧国鉄のモハ30形やモハ50形といった17m級の車両の車体などを譲り受け、再生復旧工事を実施して製造されました。制御電動車のデハ3600形16両、制御車のクハ3670形9両とクハ3770形12両、計3形式37両が投入されました。クハが2形式に分かれたのは、昇圧前の過渡期であったためで、クハ3670形が直流600V専用であったのに対し、クハ3770形は600V/1500Vの複電圧に対応していたためです。東急全線が昇圧された後は、クハ3670形も1500Vに対応し、機能的な差異はなくなりました。

多様な出自

3600系は、大きく分けて2つのグループが存在しました。一つは、焼損した車両の車体を「叩き出し」で修復した応急復旧車グループ（デハ3601・3602・3607・3608、クハ3671-3675、クハ3771-3775）で、もう一つは、台枠のみを流用して車体を新造したグループ（デハ3603-3606・3609-3616、クハ3676-3679、クハ3776-3782）です。応急復旧車は、種車や焼損の程度が異なっていたため、外観の状態には個体差が見られました。一方、台枠流用車は、旧国鉄のモハ50形をベースとしつつも、様々な車両の台枠が使用され、メーカーによっても細部に差異がありました。いずれのグループも、国鉄の規格である2,800mm幅であったため、東横線や目蒲線といった一部の路線でのみ運用されました。

東急から系列会社へ

1961年（昭和36年）に開業した伊豆急行線では、車両不足のため、東急から本系列の車両が貸し出されました。デハ3608、3612、クハ3677、クハ3780の4両が貸し出され、特にデハ3608は両運転台化改造が施され、開業前の試運転にも使用されました。当初は東急色でしたが、後に伊豆急行色に塗り替えられ、予備車や電気機関車の代用として活用されました。また、定山渓鉄道（現：じょうてつ）にもデハ3609 - 3611が譲渡され、モハ2200形として活躍しました。

更新と晩年

1960年（昭和35年）からは、応急復旧車を対象に、車体を全金属製のノーシル・ノーヘッダー構造に更新する工事が行われました。この更新により、車体幅が地方鉄道規格の2,744mmに縮小され、大井町線や池上線など、東急の全線で運用が可能になりました。更新車は、前面形状や前照灯の種類に差異が見られました。デハ3600形は、当初は旧国鉄払い下げの主電動機を使用していましたが、末期には日立製作所製の強力な電動機を搭載していました。更新車は、田園都市線や目蒲線で運用された後、こどもの国線専用車としても使用されました。1971年（昭和46年）以降、台枠流用車とクハ3771が廃車となり、1976年（昭和51年）までに姿を消しました。一部は弘南鉄道に譲渡され、同社の主力として活躍しました。更新車も1979年（昭和54年）以降廃車が始まり、1982年（昭和57年）までに全廃されました。一部は弘南鉄道や上田交通、名古屋鉄道などに譲渡されました。

3600系の保存

弘南鉄道で最後まで運用されていたグループのうち、クハ3773が青森県弘前市のスキー場で休憩室として利用されていましたが、スキー場の閉鎖に伴い、その後の動向は不明となっています。この車両は、東急標準車体を持つ車両として、また東急3600系の唯一の現存車として、貴重な存在でした。

東急3600系は、戦後の混乱期を生き抜いた車両として、その多様な出自や活躍、そして晩年まで、多くの人々に愛され、記憶されています。

関連項目

西武311系電車
京成2000形電車
相鉄2000系電車
東武クハ450形電車

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