東方三博士の礼拝 (ルーベンス、リヨン美術館)

東方三博士の礼拝

ピーテル・パウル・ルーベンスによる『東方三博士の礼拝』は、17世紀初頭のバロック美術を代表する作品の一つです。この絵画は、新約聖書のマタイによる福音書に記述された、東方から来た三博士が幼子イエスを訪問し、礼拝する場面を描いています。ルーベンスは、この聖書の物語を、彼の特徴であるダイナミックな構図、豊かな色彩、そして劇的な表現を用いて、力強く描き出しました。

主題と背景

この作品の主題は、マタイ福音書2章に基づいています。イエス・キリストがベツレヘムで生まれた際、東方で星を見た三博士は、その星が示す場所に向かい、生まれたばかりの王を礼拝するためにエルサレムを訪れます。彼らはヘロデ王に新しい王の誕生を告げ、その後、ベツレヘムで幼子イエスと聖母マリアに出会います。三博士はイエスを礼拝し、それぞれ黄金、乳香、没薬を捧げました。ルーベンスはこの瞬間を捉え、敬虔な感情と豪華な装飾を融合させた独特のスタイルで表現しています。

作品の詳細

ルーベンスは、三博士が幼子イエスを礼拝する瞬間を、詳細かつ劇的に描いています。聖家族は厩舎として利用される洞窟に身を寄せており、背景には簡素な小屋が見えます。幼子イエスは聖母マリアに支えられ、飼葉桶に置かれた藁の上に立っています。三博士の最年長であるメルキオールは、ひざまずいて幼子イエスの右足にキスをし、敬意を表しています。幼子イエスはメルキオールの禿げた頭に手を置いています。

この場面は、質素な飼葉桶と、黄金で満たされたゴブレット、きらびやかなローブ、豪華な毛皮のマントなどの対比が印象的です。メルキオールの背後には、カスパールと、黒人男性として描かれたバルタザールが、宝物を持つ従者とともに立っています。さらに、鎧を身に着けた兵士が、キリストを覗き込もうとする群衆を遮っています。背景には、様々な表情と姿勢で描かれた兵士や観衆が集まり、ドラマチックな場面を構成しています。

ルーベンスは、バロック様式特有の、強烈な色彩のコントラストと質感の効果、緻密な構成を駆使して、この絵画を制作しました。三博士は、画面左上からの対角線上に、バルタザール、カスパール、メルキオールの順で配置され、人間の異なる年代を象徴しているかのようです。ルーベンスは、複数の人物の頭部習作を基に、登場人物を描いています。例えば、バルタザールの顔は、過去の習作を基に描かれたとされています。ルーベンスは、準備習作から大幅に変更を加え、人物像をより圧縮し、構図を調整しています。聖母の向きやヨセフの表情、バルタザールの視線などが変更されました。

制作年代は、多くの研究者によって1617年から1619年と推定されています。1619年に制作された祭壇画『東方三博士の礼拝』との類似性も、同時期の作品であるという説を裏付けています。

美術史家ピーター・キャンベル・サットンは、絵画の横長の形式から、個人的な礼拝のために制作された可能性を指摘しています。

来歴と習作

この絵画は、1698年にバイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルが、ルーベンスの他の12点の絵画とともに取得しました。その後、1805年にリヨン美術館に寄託されました。

油彩の準備習作（モデロ）は、ルーベンスの他の習作と同様に、流動的で生き生きとした表面と、荒削りな一次顔料の使用が特徴です。画面の両端の少年と聖ヨセフは、他の部分と比べて未完成の印象を与えます。この習作は、19世紀から存在が知られていましたが、20世紀にはほとんど忘れられていました。しかし、1980年にジュリアス・サミュエル・ヘルドによって再発見され、2004年から2005年のルーベンス展で広く知られるようになりました。2010年にサザビーズの競売で売却される前に修復され、後世の加筆が取り除かれました。

後世への影響

この作品は制作から数年後の1621年にルカス・フォルステルマンによってエングレーヴィングが制作され、後世に大きな影響を与えました。

ギャラリー

[画像1]
[画像2]
[画像3]
[画像4]
[画像5]
[画像6]
[画像7]
[画像8]

脚注

(この部分には参考文献や外部リンクへの言及が含まれます。)

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）

外部リンク

リヨン美術館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンス『東方三博士の礼拝』

この絵画は、ルーベンスの芸術的才能を示すとともに、バロック美術の壮大さとドラマを体現する傑作として、今日でも高く評価されています。

もう一度検索