東方三博士の礼拝の三連祭壇画 (ボス)

『東方三博士の礼拝の三連祭壇画』は、初期フランドル派の巨匠ヒエロニムス・ボスが1494年頃に制作した、油彩の木製パネルによる三連祭壇画です。この作品は、アントウェルペンの裕福な市民ピーテル・シェイフヴェとその妻アニエス・デ・グラムによって発注され、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

主題

この祭壇画の主題は、『新約聖書』の「マタイによる福音書」2章に記された、東方から来た三博士が幼子イエスを礼拝する場面（東方三博士の礼拝）です。

物語によると、イエスがベツレヘムで生まれた時、東方から来た三博士はエルサレムに到着し、ヘロデ王にユダヤ人の王として生まれた子供の居場所を尋ねました。彼らは東方で特別な星が現れるのを見て、その王を礼拝するためにやって来たのです。ヘロデ王は不安にかられ、祭司長や学者たちにメシアがどこで生まれるのかを問い質すと、彼らはベツレヘムだと答えました。ヘロデ王は三博士にその子供を見つけたら知らせてほしいと言い、ベツレヘムへ送り出しました。博士たちは出発すると、以前見た星が彼らを先導し、イエスのいる家の上で止まりました。家に入ると、博士たちはマリアと幼いイエスを発見し、イエスを礼拝し、黄金、乳香、没薬を捧げました。その後、夢のお告げに従い、ヘロデ王に会うことなく帰国しました。

作品

両翼裏面

この作品の特筆すべき点は、両翼のパネルの裏面に、キリストの7つの受難の場面を含む「聖グレゴリウスのミサ」がグリザイユ（灰色画法）で描かれていることです。これは、三連祭壇画の扉を閉じると、一枚の絵画として現れるように工夫されています。

聖グレゴリウスは、キリストの前の祭壇にひざまずいていますが、そこに描かれたキリストは石棺から上半身を現した悲しみの姿で、9人の天使が円形に取り囲んでいます。祭壇の外縁部には、イエスの生涯の各場面が階層的に描かれています。左下から、ゲッセマネの祈り、キリストの捕縛、ピラトの前のキリスト（ピラトの妻は天蓋の後ろから覗き見ている）、キリストの鞭打ち、いばらの戴冠、十字架の道が続き、最上部の磔刑で頂点に達します。これは罪の贖いの完了を表現しています。

また、ミサで聖グレゴリウスを助ける教皇と司祭、そして贖いの報いを受け取る寄進者といった、前景の人物たちから、両側の背景の人物を仕切るカーテンがあることも特徴的です。ボスは制作の最終段階でこれらのカーテンを追加しました。技術的な調査の結果、寄進者の肖像は制作と同時に描かれたことが判明しており、若い男はピーテルの息子ヤン・シェイフヴェ、老人はピーテルの父クラウス・シェイフヴェであると考えられています。

両翼パネル

両翼パネルの前景には、寄進者とその名前の由来となった聖人が描かれています。左翼パネルには、黒いローブをまとったピーテル・シェイフヴェが手を合わせてひざまずき、その後ろには赤いローブをまとった聖ペテロが立ち、彼を保護しています。聖ペテロの腰には、天国の鍵が吊り下げられています。また、画面左端にはピーテルの紋章と「Een voer al」（一人は万人のために）の金言が記されています。背景には、聖ヨセフと思われる人物がいます。

右翼パネルには、ピーテルの妻アニエス・デ・グラムと聖アグネスが描かれています。アニエスも黒いドレスをまとい、手を合わせてひざまずいています。聖アグネスはアニエスの背後に立ち、彼女を保護しています。画面右端にはアニエスの紋章が描かれています。背景には、クマやオオカミが人々を襲っている様子が描かれています。

中央パネル

中央パネルには、「東方三博士の礼拝」が描かれています。聖母マリアは不安定な小屋の外に座り、幼児キリストを抱いています。三博士が捧げる贈り物や衣服には、『旧約聖書』の場面が装飾されており、ボスの優れた絵画技術が示されています。

最年長のメルキオールはひざまずき、金と真珠で作られた贈り物を聖母の足元に置いています。この贈り物にはイサクの犠牲の場面が彫刻されており、罪を暗示するヒキガエルの像で支えられています。メルキオールの王冠は地面に置かれており、地上の力の無力さを表しています。

カスパールは、幼児キリストに捧げる乳香を銀のトレイに乗せて持っています。彼のクロークには、シバの女王がソロモン王に贈り物を贈る場面と、神の御使いにサムソンの誕生を予言されたマノアとその妻の供儀が描かれています。サムソンの誕生は、キリストの誕生の予兆とされています。

黒人として描かれたバルタザールは、没薬の入った球形の聖体容器を持っています。この容器には、サウル王の死後、ダビデ王の前でひざまずくアブネルの姿が彫刻されています。容器にとまったフェニックスはキリストの復活を象徴し、肩と首を飾るアザミの葉はキリストの受難を暗示しています。ペイジのチュニックには、大きな魚が小さな魚を食べるモチーフが描かれています。

小屋の入口にいる人物は反キリストと考えられています。彼は赤いマントをまとい、頭に金属の小枝が付いた王冠を被り、右足首の腫れが特徴的です。この人物の邪悪な性質は、小屋の壁の隙間に描かれたフクロウによって強調されています。小屋の中には、ボスが描いた悪魔のような頭飾りの女性など、グロテスクな人々が描かれています。

右端には、羊飼いたちが壁の穴や屋根の上から礼拝の様子を覗き見ており、場面を完成させています。小屋の後ろの背景には、売春宿を暗示する家があり、男女がその方向に向かっています。すぐ下では、ヘロデ王の兵士と思われる騎馬隊が進軍しています。遠景には、ベツレヘムの街が描かれています。

技術

下絵の段階では、いくつかの要素の位置と輪郭が変更されています。ボスは筆と液体媒体を用いて、細く軽い筆遣いで主要要素を描き、より太い筆遣いも用いています。使用された顔料は、ボスの他の作品と一致しています。

来歴

1574年、フェリペ2世によってエル・エスコリアル修道院に送られ、1839年にプラド美術館に移されました。2016年の年輪年代学調査では、木製パネルが1474年以降に製造されたことが判明しています。

この作品は、ボスの独特な視点と象徴的な表現が詰め込まれており、鑑賞者を魅了し続けています。

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