東方社

東方社：激動の時代を映した出版社

1941年設立の東方社は、日本の出版社として、特に第二次世界大戦前後における特異な歴史を持つことで知られています。戦時中は陸軍参謀本部直属の出版社として対外宣伝誌『FRONT』を発行し、戦後は大衆小説の出版に携わるなど、激動の時代を反映した活動を行っていました。

戦時下の活動：対外宣伝誌『FRONT』

1942年から1945年にかけて、東方社は陸軍参謀本部の直属出版社として、対外宣伝誌『FRONT』を発行しました。この雑誌は、海外に向けて日本の立場や政策を伝えることを目的としており、その内容は当時の国際情勢や日本の宣伝戦略を理解する上で重要な資料となっています。東方社の役割は、単なる印刷・発行にとどまらず、日本の対外宣伝戦略において重要な部分を担っていたと考えられます。

戦後の出版活動：大衆小説と写真集

終戦後も、東方社は出版社として活動を継続しました。金達寿の『中山道』など、大衆小説を数多く出版し、戦後の日本社会のニーズに応える出版活動に貢献しました。代表には大野泰子、石渡須磨子らが名を連ね、大衆小説というジャンルを通じて、当時の社会風俗や人々の生活を反映した作品を世に送り出しました。

東方社の設立と人物：写真家たちの集結

東方社の設立には、写真界の巨匠たちが深く関わっています。1934年に設立された中央工房は、日本工房から独立した木村伊兵衛、伊奈信男、原弘、岡田桑三らによって設立され、国際報道写真協会と連携しながら、写真の普及と発展に貢献しました。この中央工房が発展し、後に東方社が設立されたのです。

創設メンバーには、著名な写真家が多く名を連ね、その写真技術と芸術性は、東方社の出版物に大きな影響を与えました。木村伊兵衛は写真部責任者として、濱谷浩や菊池俊吉らと共に、高水準の写真作品を世に送り出しました。美術部門では原弘が部長として活躍し、出版物のデザインやビジュアル面において重要な役割を果たしました。

設立に際しては、初代理事長に岡田桑三が就任し、林達夫、岡正雄、岩村忍、小幡操、鈴木清、杉原二郎らが理事や監事に名を連ねました。岡田桑三の資金は、俳優としての活動や財閥からの援助によるものであったと伝えられています。

解散とその後：原爆記録映画への貢献

1945年の解散時には、岡田桑三の私有財産であった土地なども無断で処分されるなど、混乱を極めたとされます。しかし、東方社のスタッフたちは、戦後も日本の文化・社会の発展に貢献し続けました。

特に、原爆記録映画のスティール写真撮影において、旧東方社のスタッフたちが貢献したことは注目に値します。1945年9月、文部省学術研究会議に設置された原子爆弾災害調査研究特別委員会の学術調査団を補助する日本映画社が、旧東方社のスティールカメラマンを確保し、記録映画制作に協力しました。菊池俊吉、林重男、田子恒男らが医学班や物理班に派遣され、貴重な記録写真の撮影に携わったのです。

また、旧東方社のスタッフたちは1946年に文化社を設立し、『東京一九四五年・秋』などの写真集を刊行。戦後の混乱期においても、写真を通して日本の現状を記録し、伝えていこうとした姿勢は高く評価できます。さらに『マッセズ』というグラフ雑誌も発行、社会への貢献を続けました。

東方社が残したもの

東方社は、戦時下の対外宣伝から戦後の大衆文化まで、激動の時代を背景に活動した出版社でした。その活動は、必ずしも一貫したものではありませんでしたが、日本の社会や文化に多大な影響を与えたことは間違いありません。特に、写真家たちの貢献は大きく、日本の写真文化の発展に大きな足跡を残しました。彼らの活動は、現代においても、歴史的・文化的遺産として高く評価されています。 東方社の歴史を紐解くことは、戦前・戦後の日本の社会と文化を深く理解する上で、重要な一歩となるでしょう。

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