東方紅

東方紅とは

「東方紅」（とうほうこう、簡体字：东方红、拼音: Dōngfāng Hóng）は、中華人民共和国において特に歴史的に重要な位置を占める歌曲の一つです。1960年代のプロレタリア文化大革命期には、指導者である毛沢東や中国共産党を称賛する内容から、公の場で広く歌われ、事実上の国歌として扱われました。また、この楽曲名を冠した同名の音楽劇も存在し、革命の歴史を壮大に描いています。

起源と作者

この楽曲の成立当初の作詞者は、陝西省北部の農民である李有源であるとされています。彼は抗日戦争中、昇る朝日を見て着想を得て歌詞を創作したと伝えられています。メロディは、出身地の民謡として歌われていた「芝麻油」や「白馬調」を基にしたと言われており、そのため「東方紅」は「陝北民歌・革命歌曲」として紹介されることが多くあります。楽曲は1944年に共産党解放区の新聞「解放日報」で初めて発表されました。現在演奏される際に用いられる伴奏は、李煥之によるものです。

李有源が創作した歌詞は当初4番まで存在しましたが、翌1945年に公木を中心としたグループによって2番以降が改訂され、現在一般的に知られている3番構成の歌詞となりました。文化大革命期には、改訂後の歌詞も含めて李有源の作とされていましたが、後に別の作者説も浮上し議論となりました。しかし、現在では成立当初の1番歌詞については李有源の作であることが通説となっています。

文化大革命期の普及

中華人民共和国の正式な国歌は建国以来「義勇軍進行曲」ですが、文化大革命期にはその作詞家である田漢が批判の対象となったため、歌詞が歌われなくなり、演奏のみが行われる状況となりました。これに伴い、「東方紅」が多くの場面で「義勇軍進行曲」に代わって使用され、事実上の国歌として扱われました。当時の学校や職場では、一日の始まりに必ず「東方紅」が斉唱され、ラジオ放送では国内・国際放送ともに、この曲の演奏で始まり、「インターナショナル」で終わるのが一般的でした。ただし、現在では「東方紅」が公式には国歌ではなく、第二国歌として位置づけられていたとする見解も存在します。国際放送である中国国際放送（北京放送）では、近年までインターバルシグナルとして「東方紅」のメロディを使用していましたが、現在は「義勇軍進行曲」に切り替わっています（一部を除く）。

その後の扱い

毛沢東の死去後、鄧小平の時代になり、毛沢東の政策に対する検証が進む中で、「東方紅」が公的な場で歌われる頻度は以前に比べて減少しました。しかし、2009年10月1日に開催された中華人民共和国成立60周年記念式典では、軍事パレードに続く群衆パレードの中で、毛沢東時代を象徴する楽曲として再び取り上げられ、曲の演奏と毛沢東の建国宣言の肉声放送に続いて合唱が行われました。また、現在でもチャイムのメロディとして根強い人気があり、都市部の一部では正午や夕方などの定時に街中に「東方紅」のチャイムが流されている場所もあります。

歌詞

（注：2番以降の歌詞は公木らが1945年に改訂したものであり、著作権が保護されているため、ここでは李有源作とされる1番のみを掲載します。）

東方紅太陽昇
中国出了個毛沢東
他為人民謀幸福
呼児咳呀他是人民的大救星

直訳
東が赤くなり太陽が昇った
中国に毛沢東が現れた
彼は人民の幸福を図る
ああ、彼は人民の大きな救いの星

（※「呼児咳呀」は特に意味のない掛け声や感嘆詞とされ、発音に基づき他の漢字で表記されることもあります。）

音楽劇「東方紅」

1965年には、同名の音楽劇が上演されました。「音楽舞踊史詩」と銘打たれたこの作品は、列強支配下の旧社会から始まり、中国共産党の指導のもとで農工兵が組織され地主階級を打倒し、都市では学生が立ち上がり、国民党や日本軍を打ち破り、多民族国家である新中国を樹立するまでの革命の歴史を、音楽、歌、踊りを中心に壮大に描いた舞台劇です。場面転換時のナレーションを除けば、台詞は一切なく、物語はすべて歌詞によって語られる形式が特徴です。使用される楽曲は「東方紅」で始まり、「義勇軍進行曲」、「三大紀律八項注意」など、革命の歴史の中で歌われたものが中心で、最後は「インターナショナル」の斉唱で幕を閉じます。この音楽劇は、同年には記録映画としても制作され、大劇場がない地方でも上映される機会が設けられました。

その他の用例

「東方紅」は、楽曲や音楽劇としてだけでなく、地名や機械・工業製品の名称にも広く用いられました。特にトラクターや機関車などの名称として好んで採用された例が多く見られます。黒龍江省には「東方紅駅」という駅名があり、甘粛省蘭州市には中央広場として「東方紅広場」が存在し、その最寄り駅には「東方紅広場駅」という地下鉄駅があります。これらの例からも、この言葉がかつての中国社会において持っていた象徴的な意味合いがうかがえます。

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