東村山黒焼きそば

東村山黒焼そば

東村山黒焼そば（ひがしむらやまくろやきそば）は、東京都東村山市で誕生した地域活性化を目指すご当地グルメの一つです。最大の特徴は、ソースにイカスミが使用されていることで、その名の通り麺全体が真っ黒な仕上がりになります。

この焼きそばは、東村山市内に工場を持つ調味料メーカーであるポールスタア社が製造・販売する「東村山黒焼そばソース」を、使用するソース全体の半分以上用いることを定義としています。ただし、具材の種類や味付けの細部、そして盛り付け方法については一切の制限が設けられていません。そのため、東村山市内の様々な飲食店では、それぞれの個性を活かした多彩な黒焼そばが提供されており、訪れる人々を楽しませています。

開発と普及の歩み

東村山黒焼そばの歴史は、まずその基盤となる専用ソースの開発から始まりました。ポールスタア社では、東村山市を新たな形で全国に知ってもらいたいという強い思いから、手軽でありながらインパクトのある名物となることを目指し、2006年頃から専用の焼きそばソースの開発に着手しました。そして、試行錯誤を経て完成した「東村山黒焼そばソース」が2008年に市場に投入されました。

ソース発売の翌年、2009年にはポールスタア社の主導で「東村山黒焼きそば食べ歩きキャンペーン」が開催されました。このキャンペーンには、東村山市内の飲食店およそ60店舗が参加。多くの店が東村山黒焼そばを提供し始めたことが、市内での定着と通年メニュー化の大きなきっかけとなりました。以降、この食べ歩きキャンペーンは毎年恒例のイベントとなり、6月または7月に開始され、「黒の日」と銘打たれた9月6日まで続けられています。キャンペーンの対象は焼きそばに限定されず、このソースを使った焼きうどんやピザなど、ユニークな創作料理を提供する店舗も登場しています。

専用ソース「東村山黒焼そばソース」の秘密

「東村山黒焼そばソース」は、東村山市出身のポールスタア社長が、自らの故郷が埼玉県と間違われる経験から、地域への貢献を強く意識して開発した製品です。特に屋台などで手軽に提供できる焼きそばに注目し、その核となるソース作りに情熱を注ぎました。

ソースの黒い色は、単なる着色料ではなく、東村山に伝わるある伝説に由来しています。1333年、鎌倉幕府討伐のために兵を挙げた新田義貞が、久米川の戦いの前夜に八国山に陣を敷いた際、敵に見つからないよう夜食の米に炭をかけて食べたという故事からインスピレーションを得て、イカスミを用いることが決定されました。

原材料としては、ウスターソースをベースに、特徴的なイカスミ、さらに鹿児島県特産の黒酒、トマトやリンゴなどの野菜や果物が加えられています。加えて、シナモン、ナツメグ、クローブ、セージといった約10種類のスパイスが絶妙にブレンドされ、独特の深みと風味を持つソースが完成しました。

多彩な味わい方と地域への広がり

前述の通り、使用するソースの割合以外の規定がないため、東村山黒焼そばは各店舗で個性豊かにアレンジされています。例えば、中華料理店「ぼん天久米川店」では、黒焼そばソースに黒コショウ、少量の醤油と砂糖を加えてシンプルに炒めるスタイル。ラーメン店「ラーメン本舗まるみ」では、麺にあらかじめ中国醤油で下味をつけ、炒める際にウスターソースをブレンドする工夫が見られます。また、別の中華料理店「一翠」では、黒焼そばソースとオイスターソースを混ぜ合わせ、キクラゲ、イカ、モヤシ、豚肉といった具材と共に炒めた後、四角い専用皿に盛り付け、マヨネーズを添えるという独自のスタイルを確立しています。

東村山黒焼そばは、飲食店だけでなく地域の様々な場面で親しまれています。2012年からは、東村山市内の学校給食としても提供されるようになりました。給食用の黒焼そばソースは、ポールスタア社から無償で提供されています。この学校給食への導入には、地元の市立久米川東小学校の児童の活動が関係しています。当時5年生だった森涼葉さんが、夏休みの自由研究で食品ロス削減と地産地消をテーマに選び、自宅にあった地元産野菜と黒焼そばソースを使ってカレーのレシピを考案したことがきっかけとなり、東村山ブラックカレーという形で学校給食にも取り入れられています。

さらに、焼きそば以外にもソースの活用は広がっており、市内約100店舗（2021年時点の情報）で「東村山黒焼そばソース」を用いた料理が提供されています。中には「黒いたこ焼き寿司」のような意外なメニューも存在します。

イメージキャラクターとコラボレーション

東村山黒焼そばには、新田義貞をモデルとしたイメージキャラクター「よしくん」が存在し、普及活動を盛り上げています。

また、全国展開する大手製パン会社とのタイアップも実現しています。2021年には山崎製パンから「ランチパック 東村山黒焼きそばと赤焼きそば」が期間限定・地域限定で販売され、大きな話題となりました。2023年にはフジパンからも「スナックサンド 東村山黒焼きそば」が期間限定・地域限定で発売されました。この際には、埼玉県所沢市のご当地焼きそばであるところざわ醤油焼きそばを再現した「スナックサンド ところざわ醤油焼きそば」も同時に発売され、SNSを活用した人気投票キャンペーンが行われるなど、他地域との連携も深まっています。

このように、東村山黒焼そばは単なる一品料理に留まらず、専用ソースを中心に、地域住民、飲食店、企業、そして行政が一体となって盛り上げる東村山市を代表する地域ブランドへと成長しています。

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