東海軍管区

東海軍管区（とうかいぐんかんく）

東海軍管区は、旧日本陸軍が太平洋戦争末期の1945年（昭和20年）2月1日に設置した軍管区の一つです。迫りくる連合国軍との本土決戦に備え、内地における軍の指揮系統と軍事行政体制を再編成する中で設けられました。

その主要な役割は、愛知県、岐阜県、静岡県、三重県、石川県、富山県の計6県にわたる広範な地域の軍事行政（軍政）を統括することにありました。具体的には、徴兵、兵站（物資の調達・補給）、衛生、治安維持など、作戦行動以外の後方支援や地域統制に関する業務全般を担いました。

歴史的変遷

この地域が陸軍の管轄区域として整備されたのは、明治時代の初期にさかのぼります。旧陸軍制度の創設期である1873年（明治6年）には、名古屋鎮台の管轄区域として「第三軍管」が置かれ、現在の東海地方と北陸地方の一部を含む広大な範囲（愛知県、三重県、静岡県、石川県、富山県、岐阜県、福井県）を管轄していました。

1888年（明治21年）に鎮台が師団に改編されると、この区域は第3師団が担当する「第三師管」となりました。その後、師団の新設や再編に伴い、師管の管轄区域は何度か変更されます。

1898年（明治31年）に第9師団が設置されると、石川県、富山県、岐阜県、福井県が「第九師管」に移管され、第三師管は愛知県、三重県、静岡県の3県となりました。
1905年（明治38年）に第15師団が新設されると、静岡県が「第十五師管」に移りますが、1925年（大正14年）の宇垣軍縮によって第15師団が廃止されると、静岡県は再び第三師管の管轄に戻りました。この際、三重県が「第十六師管」へ移管され、第三師管は愛知県、岐阜県、静岡県の3県、第九師管は石川県、富山県、福井県の3県となりました。

1941年（昭和16年）8月5日の陸軍管区表改正により、師管の名称が師団名から地名に変更されます。これにより、第三師管は「名古屋師管」に、第九師管は「金沢師管」となりました。この時点での名古屋師管は愛知県、岐阜県、静岡県を、金沢師管は石川県、富山県、長野県を管轄していました。

そして、1945年（昭和20年）2月1日、本土決戦体制への移行に伴い、これらの師管を束ねる広域的な軍政単位として東海軍管区が新設されたのです。

設立の経緯と役割

大戦末期、大本営は本土防衛体制を強化するため、内地の部隊編制を大きく見直しました。この改革の柱となったのが、「作戦」と「軍政」の分離推進です。それまで師団長が兼務していた徴兵や後方支援などの軍政業務を、新たに設置される師管区司令部へと移管しました。

また、内地に置かれた各部隊は、実際の戦闘を担う「作戦部隊」と、軍政を遂行する「管区部隊」に分けられました。管区部隊の指揮系統として、方面軍司令部が「軍管区司令部」を兼務し、その下に「師管区司令部」を置く体制が構築されました。これは、地方行政協議会の管轄区域とも整合性を図るためであり、既存の軍管区に加え、新たに東北、東海、四国、中国の四つの軍管区司令部が方面軍（または軍）司令部によって兼務されることとなりました。

東海軍管区司令部は、この再編成の中で誕生したもので、新たに編成された第13方面軍司令部がその任を兼務しました。その管轄区域は、愛知県、岐阜県、静岡県、三重県、石川県、富山県の6県に設定され、この地域における軍政全般を指揮しました。管区内には、隷下部隊として名古屋師管区司令部と金沢師管区司令部が置かれ、それぞれが管轄地域のより細かな軍政実務を担当しました。これらの師管区司令部は、1945年4月1日に、既存の留守第3師団司令部と留守第52師団司令部を改編して編成されました。

名古屋師管区は愛知県、岐阜県、静岡県に三重県を加えた4県の軍政を、金沢師管区は石川県、富山県の2県の軍政を担当しました。これにより、東海軍管区は広範な地域における軍事行政を一元的に管理する体制を確立しました。

司令部人事と隷下組織

東海軍管区司令部は、第13方面軍司令部との兼務体制が取られていました。歴代司令官は、第13方面軍司令官が兼務しており、初代は岡田資中将が務めました。参謀長も当初は兼務でしたが、後に専任の将官も配置されています。主な幹部として、参謀長には藤村益蔵少将、柴田芳三少将らが、参謀副長には花本盛彦大佐、重安穐之助少将らが名を連ねています。

東海軍管区の隷下には、上述の名古屋師管区と金沢師管区のほか、様々な部隊や機関が配置されていました。これらは、管区内の軍政遂行や後方支援体制を支える役割を担っていました。具体的な隷下組織としては、野戦重砲兵の補充隊、名古屋俘虜収容所、東海軍管区臨時軍法会議、防疫部、野戦補充馬廠、そして金沢、大宮、豊橋、三島などに置かれた陸軍病院などがありました。これらの組織が連携し、管区内の兵員補充、物資供給、衛生管理、法秩序維持といった多岐にわたる軍政業務を遂行しました。

東海軍管区は、本土決戦に備えた最後の軍事行政体制の一部として機能しましたが、1945年8月の終戦に伴い、その役割を終えることとなりました。戦局の悪化に伴う急ごしらえの体制でしたが、終戦までの短い期間、管轄区域における軍事行政の中枢を担いました。

もう一度検索