東海道四谷怪談 (1959年の映画)

東海道四谷怪談

『東海道四谷怪談』は、1959年に公開された新東宝製作の時代劇ホラー映画です。監督は中川信夫で、四世鶴屋南北の同名作品を原作としています。この映画は、怪談映画として非常に高い評価を受けており、特にその演出や映像表現は、他の四谷怪談を題材にした作品と比較しても際立っています。

あらすじ

物語は、江戸時代中期を舞台に、浪人である民谷伊右衛門が、妻となるお岩との婚儀を反故にされたことから始まります。お岩の父・四谷左門を殺害した伊右衛門は、その罪を隠すため、お岩とその妹であるお袖を唆し、仇討ちを名目に江戸へ旅立つことになります。しかし、伊右衛門には仇を討つ気などなく、お岩との間に子供をもうけるも貧困生活を送る日々でした。そんな中、伊右衛門は旗本の娘・お梅に気に入られ、婿入りを勧められます。お岩を疎ましく思った伊右衛門は、毒薬を使ってお岩を殺害しようと企み、その結果、お岩は凄惨な姿で亡くなってしまいます。

お岩の死後、伊右衛門はお梅と結婚しますが、お岩の亡霊に苛まれ、狂乱の中で周囲の人々を殺害してしまいます。逃亡の果て、沼地で戸板に縛り付けられたお岩の亡霊に呪詛されます。そして、復讐に燃えるお袖と、実は生きていた許婚の与茂七に襲撃され、伊右衛門は自らの手で命を絶つことになります。最後に、お岩の亡霊は美しい姿に戻り昇天します。

概要

この映画は、四谷怪談を題材にした作品としては初のカラー映画であり、新東宝にとって2度目の映画化でした。大蔵貢の発案により、オープニングには歌舞伎の様式美が取り入れられ、監督の中川信夫がこだわった「人間の業の深さ」がテーマとなっています。特に「戸板返し」や、お岩が醜く変貌していく場面は、原作の見せ場を忠実に再現しており、観客に強烈な印象を与えました。助監督・脚本を担当した石川義寛は、脚本を大幅に修正し、物語に独自の要素を加えました。

また、国産のフジカラーネガティブフィルムを使用しており、色合いや色彩の質感は、他の映画とは異なる独特の雰囲気を持っています。

制作の背景

撮影にあたっては、様々なエピソードが存在します。例えば、伊右衛門が四谷左門を殺害するシーンは、ワンカットで撮影されており、特殊な機材が開発されました。また、お岩役の若杉嘉津子は、高所恐怖症でありながらも、逆さ吊りなどの過酷な演技に挑戦しました。さらに、直助役の江見俊太郎は、蛇嫌いでありながらも、蛇の入った盥に足を入れるシーンに挑むなど、出演者たちの努力が伺えます。

キャスト

当初、主役の伊右衛門には嵐寛寿郎が配役される予定でしたが、最終的に天知茂が演じることになりました。お岩役には若杉嘉津子が、お袖役には北沢典子が、お梅役には池内淳子、直助役には江見俊太郎が起用されています。それぞれの俳優たちが、個性豊かなキャラクターを演じ、物語に深みを与えています。

原作との比較

本作は、原作である『仮名手本忠臣蔵』の一挿話を基にしていますが、いくつかの点で変更が加えられています。例えば、舞台は備前岡山藩に移され、赤穂事件との関連は省略されています。また、原作に登場する小仏小平の代わりに、宅悦がお岩とともに戸板に括り付けられ、隠亡堀に捨てられるという設定になっています。物語の結末も、原作とは異なり、伊右衛門が自ら命を絶つという形になっています。

評価

『東海道四谷怪談』は、公開当時から高い評価を受けており、多くの映画評論家や映画監督から絶賛されています。特に、中川信夫監督の演出や、天知茂の演技、映像表現などが高く評価されています。また、この作品は、日本映画史に残る傑作として、今もなお多くの人々に愛されています。

フランシス・フォード・コッポラ監督も本作を高く評価し、「世界のオカルト映画の中で最高傑作だ」と評しています。

映像ソフト

この映画は、DVDやBlu-rayで発売されており、高画質で鑑賞することができます。2019年には、HDリマスター版のBlu-rayが発売されました。

まとめ

『東海道四谷怪談』は、単なる怪談映画としてだけでなく、人間の業や心の闇を描いたドラマとしても見ごたえのある作品です。中川信夫監督の卓越した演出と、俳優たちの迫真の演技が融合し、観る者を魅了します。まだ見たことのない方は、ぜひ一度ご覧になってください。

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