東郷吉太郎

東郷 吉太郎

東郷 吉太郎（とうごう きちたろう）は、幕末期の慶応2年（1867年）1月19日に薩摩藩士・東郷実猗の息子として誕生しました。旧字体では「東鄕吉太郞」と表記されます。家系は東郷重友を家祖とする東郷氏の第8代目当主にあたり、特に海軍の英雄として知られる東郷平八郎元帥は彼の叔父にあたります。

明治19年（1886年）12月、海軍の士官を養成する海軍兵学校（第13期生）を卒業し、明治21年（1888年）11月には海軍少尉に任官し、海軍軍人としての道を歩み始めました。若手将校として、様々な艦艇での勤務を経験します。日清戦争が勃発すると、「大島」の分隊長として実戦に参加しました。

戦後もキャリアを積み重ね、「松島」や「富士」で砲術長を務め、英国へ出張して「初瀬」の回航委員を務めたほか、「操江」艦長や皇族である依仁親王附の武官など、多岐にわたる役職を歴任しました。

明治37年（1904年）に日露戦争が始まると、戦艦「朝日」の副長として参加し、特に日本海海戦のような歴史的な大海戦にも従軍しました。戦後も、「高雄」「和泉」「見島」「笠置」といった艦の艦長を務め上げたほか、横須賀海軍工廠の検査官や台湾総督府の海軍参謀長など、陸上勤務の要職も経験しました。

大正元年（1912年）12月には海軍少将に昇進。海軍砲術学校長を務めた後、第一戦隊司令官として部隊の指揮を執りました。大正3年（1914年）に第一次世界大戦（日独戦争）が勃発すると、臨時南洋群島防備隊司令官として出征し、ドイツの南洋諸島占領に貢献しました。

大正5年（1916年）12月、海軍中将に進み、最終階級となりました。その後、鎮海要港部司令官を兼務するなど重要なポストを歴任しましたが、大正8年（1919年）12月に待命となります。翌大正9年（1920年）8月に予備役に編入され、その後後備役を経て、昭和6年（1931年）12月に海軍を退役しました。昭和17年（1942年）10月26日に75歳で亡くなりました。

軍人としてのキャリアの傍ら、文化的な側面を持つエピソードも知られています。大正11年（1922年）、鹿児島第一中学（現在の鶴丸高校）で幕末期に日本沿岸に来航した外国船に関する講演を行った際、奄美大島沖に現れたアメリカ船を描いたスケッチを資料として提示しました。これは名越左源太の日記『見聞雑事録』に記されていたものです。このスケッチを見た教諭で生物学者の永井亀彦は、作者不明とされていた『南島雑話』に描かれた絵と酷似していることに気づき、『南島雑話』の著者が名越左源太であると確信した、という逸話が残っています。

栄典としては、海軍軍人として数々の位階と勲章を授与されています。位階は、明治24年（1891年）の正八位から始まり、最終的に大正9年（1920年）には正四位に叙せられました。勲章では、日清・日露戦争や第一次世界大戦への従軍記章はもちろんのこと、明治28年（1895年）の勲六等単光旭日章から始まり、功四級金鵄勲章や勲三等旭日中綬章、そして最終的に大正9年（1920年）には勲一等瑞宝章を受章しています。

親族関係は非常に複雑で、特に東郷家と海江田家は三重の縁組で結ばれていました。吉太郎の父・東郷実猗は、有村仁左衛門兼善の次女である勢以と結婚しました。この勢以は海江田信義の妹にあたります。そして、この勢以の仲立ちによって、勢以の夫の弟である東郷平八郎と、勢以の兄である海江田信義の長女テツが結婚しました。さらに、勢以の息子である東郷吉太郎自身が、勢以の兄である海江田信義の次女ハルと結婚したため、吉太郎と妻ハルはいとこ同士でもあり、吉太郎の叔父平八郎は妻ハルの姉テツの夫にあたる、という複雑な関係が成り立っています。吉太郎の子供には、陸軍中尉となった長男の吉虎や、鈴木義尾に嫁いだ娘がいます。孫には、長男吉虎の息子で東京都職員となった東郷尚武がいます。

東郷吉太郎は、激動の時代に海軍軍人としてキャリアを全うし、多くの戦役に参加するとともに、学術的な発見にも貢献した人物としてその名を残しています。

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