東雲 (KANのアルバム)

KAN『東雲』（しののめ）解説

1994年11月26日、シンガーソングライターKANは自身のキャリアにおいて9枚目となるオリジナルアルバム『東雲』を発表しました。この作品は、彼が所属していたポリドール・レコードからリリースされた最後のアルバムとして位置づけられています。CDとして世に送り出された本作には、全10曲が収録されており、音楽ファンから注目を集めました。

アルバムタイトルの『東雲』は、その制作背景に由来しています。レコーディング作業が東京都江東区にある東雲のスタジオで行われたことから、この地名がそのまま作品名として採用されました。場所の名前を冠することで、アルバムが生まれた場所への敬意や、そこで過ごした時間への想いが込められているのかもしれません。

収録曲はバラエティ豊かであり、その中にはシングルとして既に発表されていた、あるいは後にシングルカットされた楽曲も含まれています。例えば、アルバムの発売と同日にリリースされたシングル「Sunshine of my heart」が収録されているほか、「東京に来い」は本作発表の約半年後に、そして「すべての悲しみにさよならするために」は約2ヶ月後にそれぞれシングルとして改めてリリースされました。これらの楽曲は、当時のテレビ番組のテーマソングとしても使用され、多くの人々の耳に触れる機会を得ました。

個々の楽曲に目を向けると、様々なスタイルやテーマが展開されています。「Sunshine of my heart」はテレビ朝日系の番組「まいど!音楽ラスベガス」のエンディングテーマとして使用されました。「牛乳のんでギュー」は、アルバムの帯で「またまた異色の話題作」と紹介された通り、KAN自身のピアノ弾き語りによるユニークなナンバーです。また、「結婚しない二人」は、一般的な枠にとらわれない自由な同棲生活を送るカップルを描写しており、歌詞の中に人気ロックバンドMr.Childrenの名前が登場するという、当時の世相を反映したような遊び心が見られます。この楽曲のライブバージョンは、後年リリースされたシングル「ドラ・ドラ・ドライブ大作戦」のカップリングにも収録されており、また2009年には松浦亜弥氏によってカバーされるなど、長く親しまれています。「West Home Town」では、KAN氏の故郷である福岡県をイメージし、歌詞に方言を取り入れることで、よりパーソナルな感情を表現しています。「東京に来い」は、読売テレビ・日本テレビ系列の番組「紳助のサルでもわかるニュース」のエンディングテーマとして起用されました。「悲しみの役割」「ホタル」「Girlfriend」といった楽曲も、アルバムに深みを与えています。「すべての悲しみにさよならするために」は、日本テレビ系「スーパーテレビ情報最前線」のエンディングテーマとして使用され、多くのリスナーに感動を与えました。アルバムを締めくくる「星屑の帰り道」は、アコースティックギターとストリングスが織りなす美しいサウンドが特徴的なバラードです。この楽曲は、後年である2019年に放送された音楽特番「クリスマスの約束2019」において、小田和正氏との共演で披露され、再び注目を集めました。

本作の制作には、日本の音楽シーンを代表する数多くの著名なミュージシャンたちが参加しており、その卓越した演奏がアルバムのサウンドを支えています。ドラムは青山純氏と小田原豊氏、ベースは高水健司氏、美久月千晴氏、松原秀樹氏、エレキギターは今剛氏、本田清巳氏、伊藤浩紀氏、梶原順氏、アコースティックギターは今剛氏と吉川忠英氏が担当しました。キーボードは小林信吾氏とKAN氏自身が手掛け、西司氏、曳田修氏、Melody Sexton氏、Joey Johnson氏、Clay Lawrey氏らがバッキングボーカルを務めています。さらに、管楽器奏者としてサックスに小池修氏、金城寛文氏、山本拓夫氏、平原まこと氏、トランペットに小林正弘氏、河東伸夫氏、エリック・ミヤシロ氏、横山均氏、菅坡雅彦氏、フリューゲルホルンに小林正弘氏と菅坡雅彦氏が参加しました。ストリングスアレンジと演奏は、金子飛鳥グループ、友田啓明グループ、友田啓明カルテットが担当し、楽曲に豊かな響きを加えています。また、コンピュータプログラミングは浦田恵司氏、小泉洋氏、鈴木直樹氏が手掛け、当時の先進的なサウンドメイキングに貢献しました。これらの素晴らしいミュージシャンたちの力も借りて、『東雲』はKAN氏の音楽世界を深く、豊かに表現した作品となっています。

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