東風 (映画)

『東風』(Le Vent d'est) - 革命と西部劇の異色作

1969年6月、ジャン＝リュック・ゴダールと仲間たちによる映画製作集団「ジガ・ヴェルトフ集団」が発表した『東風』(Le Vent d'est)は、従来の西部劇の枠組みを大胆に超えた、実験的で政治的なメッセージに満ちた作品です。

階級闘争と民主主義の勝利をテーマに、異様なまでにスタイリッシュな映像と、型破りな展開で観る者を魅了します。一見すると西部劇の様式を踏襲しているように見えますが、その実態は、既存の映画表現や社会体制に対する痛烈な批判と、新たな表現の可能性を探る実験の場となっています。

個性豊かなキャスト陣も本作の魅力の一つです。主演を務めたジャン・マリア・ヴォロンテは、『荒野の用心棒』や『夕陽のガンマン』といったマカロニ・ウェスタンで知られる悪役俳優として有名でしたが、同時にイタリア共産党員としても活動していました。彼の演技は、単なる西部劇の悪役ではなく、複雑な社会情勢の中で葛藤する人間の姿を浮き彫りにしています。

また、女革命家の役を演じたアンヌ・ヴィアゼムスキーは当時ゴダールの妻であり、ジガ・ヴェルトフ集団と行動を共にしていました。彼女のパフォーマンスは、革命に身を投じる女性の強い意志と繊細さを表現しています。さらに、ブルジョワ娘を演じたクリスチャーナ・トゥリオ・アルタンは、本作に続くジガ・ヴェルトフ集団の作品『イタリアにおける闘争』でも主演を務めており、ゴダール作品における重要な存在感を示しています。

その他にも、ブラジルからの亡命中の映画監督グラウベル・ローシャや、イタリアの映画監督マルコ・フェレーリなど、錚々たる顔ぶれが出演しています。彼らの参加は、本作が単なる映画作品を超えた、国際的な文化交流や政治的運動の場であったことを示唆しています。

日本での公開と評価

日本では1970年7月7日に劇場公開され、その後も2001年と2005年に再公開、DVD発売が行われるなど、長きに渡って愛され続けています。これは、本作が持つ普遍的なテーマと、実験的な映像表現への高い評価が、時代を超えて共感を呼び起こしていることを示していると言えるでしょう。

スタッフと製作

監督はジガ・ヴェルトフ集団（ジャン＝リュック・ゴダール、ジャン＝ピエール・ゴラン、ジェラール・マルタン）が務め、脚本にはゴダール、ダニエル・コーン＝バンディ、セルジオ・バッツィーニといった才能が集結しています。撮影はマリオ・ヴルピアーニ、編集はゴダールとゴランが担当するなど、高度な技術と芸術性が追求されています。製作会社はポリフィルム（ローマ）、アヌーシュカ・フィルム（パリ）、フィルム・クンストと、国際的な体制が組まれていたことも特筆に値します。

『東風』は、単なるエンターテイメント作品ではなく、政治的メッセージと実験的な映像表現が見事に融合した、ゴダール監督作品の中でも特に異彩を放つ傑作です。 その革新的な試みは、現在でも多くの映画作家や批評家に影響を与え続けています。その独特の世界観に触れることで、映画表現の可能性と、社会や政治への鋭い視点を改めて認識できるでしょう。

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