アヌーシュカ・フィルム

アヌーシュカ・フィルム：ゴダールとカリーナが築いたヌーベルバーグの灯台

アヌーシュカ・フィルムは、1960年代のフランス映画界を彩った、記憶に残る映画製作会社です。その設立には、巨匠ジャン＝リュック・ゴダールと、彼のミューズであり、数々の作品で共演した女優アンナ・カリーナという、フランス・ヌーベルバーグを代表する二人の存在が深く関わっています。

1961年、ゴダールとカリーナは結婚。そして、1964年、二人の情熱と創造性を結晶させるかのように、アヌーシュカ・フィルムが設立されました。「アヌーシュカ」とは、アンナの愛称に由来する、ロシア風情漂う響きの名前です。

同社の記念すべき第一作は、『はなればなれに』。ラウール・クタールが撮影を担当し、ミシェル・ルグランが音楽を提供するなど、当時のフランス映画界を代表する才能が結集しました。製作主任はフィリップ・デュサールが務めました。

アヌーシュカ・フィルムは、ゴダール作品の中心的存在として、数々の傑作の制作に携わりました。しかし、その歴史は、ゴダールとカリーナの離婚という私的な出来事とも密接にリンクしています。1965年の離婚後も、アヌーシュカ・フィルムはゴダールのハウスプロダクションとして機能し続けました。

ジャン・ユスターシュ監督の中篇『サンタクロースの眼は青い』の製作や、カルロ・リッツァーニの製作会社との共同製作によるオムニバス映画『愛と怒り』への参加など、アヌーシュカ・フィルムは、ゴダール作品にとどまらず、多様な才能とのコラボレーションを通じて、フランス映画界に貢献しました。さらに、ジャック・リヴェット監督の『王手飛車取り』の脚本にも携わるなど、その活動は多岐に渡りました。また、シャルル・L・ビッチの長編デビュー作の製作も手掛け、後進の育成にも貢献しています。

1967年、ゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーの結婚、そして商業映画からの決別宣言。ジガ・ヴェルトフ集団に参加した時期（1968年～1972年）もアヌーシュカ・フィルムは製作を続けました。しかし、1972年、ゴダールとジャン＝ピエール・ゴランによる『万事快調』の完成とゴランとの決裂を機に、アヌーシュカ・フィルムは役割を終えます。ゴダールは、その後のパートナーであるアンヌ＝マリー・ミエヴィルと共に、新会社「ソニマージュ」を設立し、『ジェーンへの手紙』を製作しました。

アヌーシュカ・フィルムのフィルモグラフィーには、『はなればなれに』『男性・女性』『彼女について私が知っている二、三の事柄』『中国女』など、ゴダール作品を代表する名作が数多く名を連ねています。これらの作品は、アヌーシュカ・フィルムというひとつの製作会社が生み出した、フランス映画史、そして世界映画史における重要な遺産と言えるでしょう。

ゴダールとカリーナという、フランス・ヌーベルバーグを象徴する二人の共同設立によって誕生したアヌーシュカ・フィルム。その存在は、時代の変遷と共に移り変わる彼らの私生活と創造性を映し出し、フランス映画史に貴重な一頁を刻み込んだと言えるでしょう。アヌーシュカ・フィルムは、単なる映画製作会社を超えて、一時代を築いた二人の創造性の証として、今なお記憶に留められています。

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