杵屋栄二

杵屋栄二：長唄三味線の巨匠と、意外な情熱

杵屋栄二（きねや えいじ、1894年2月15日-1979年3月10日）は、日本の伝統音楽界に燦然と輝く、長唄三味線の巨匠です。重要無形文化財保持者（人間国宝）の称号を受け、その卓越した演奏技術と深い音楽性で、後世に多大な影響を与えました。本名は藤間吉太郎。

華麗なる音楽人生

1894年、東京で生まれた栄二は、1912年、新富座でのデビューを皮切りに、歌舞伎座への出演など華々しい舞台活動を展開します。1937年には初代中村吉右衛門一座の邦楽部長に就任し、その地位は彼の音楽界における影響力の大きさを如実に示しています。1941年には芳村五郎治との共演も果たし、長唄三味線界を牽引する存在として活躍しました。

彼の功績は演奏活動だけにとどまりません。数々の楽曲の作曲にも携わり、「揚貴妃」、「初音の頼み」、「黎明」など、名高い作品を残しています。さらに、古典採譜にも情熱を注ぎ、「業平」、「朱鐘馗」など、失われた歌舞伎音楽の復元に貢献しました。これらの活動は、日本の伝統音楽の継承と発展に大きく貢献するものでした。1964年には、長唄三味線の重要無形文化財保持者（人間国宝）に認定され、その芸術的功績が広く認められました。

意外な趣味：鉄道への情熱

栄二は、伝統音楽家としての顔とは異なる、もう一つの情熱を持っていました。それは、鉄道への深い愛情です。少年時代から工学技術者にあこがれを抱いていたとされ、21歳でカメラを入手して以来、生涯に渡り写真撮影、特に鉄道写真を愛好しました。

巡業の合間を縫って撮影された写真は、中国東北部や朝鮮半島など、当時としては珍しい貴重な記録となっています。関東大震災や戦災で多くの写真は失われてしまいましたが、昭和9年から13年にかけて撮影された写真は、疎開によって奇跡的に現存しています。これらの写真は、日本の近代化と鉄道の歴史を伝える貴重な資料として、高い価値を持っています。

さらに、戦前から鉄道模型にも親しみ、メルクリンのOゲージから、HOゲージ、そして晩年にはNゲージまで、時代と共に愛好の対象を広げていきました。鉄道友の会発足と同時に評議員に就任し、若手育成にも尽力するなど、その活動は多岐に渡っています。

十三代目片岡仁左衛門とは、東西に離れていても同じ趣味を持つ同士として親交を深めたと言われています。この交流は、異分野の著名人同士の友情の深さを示す、興味深いエピソードです。

まとめ

杵屋栄二は、長唄三味線という伝統芸能の世界で、卓越した技と深い音楽性を持ち合わせた巨匠でした。一方で、鉄道写真や鉄道模型という意外な趣味にも情熱を燃やし、その多様な才能は、私たちに深い感銘を与えます。彼の功績は、音楽のみならず、日本の文化史における貴重な記録として、これからも語り継がれていくでしょう。

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