松井田城

松井田城

松井田城（まついだじょう）は、現在の群馬県安中市松井田町高梨子、かつての上野国碓氷郡に位置した山城です。戦国時代に築かれたこの城は、諏訪城、小屋城、霞ヶ城、堅田城といった別称でも知られています。城域の一部である「安中郭」は、安中市指定史跡としてその歴史的な価値が認められています。

地理と構造

松井田宿の北方、比高約130メートルに及ぶ尾根上に築かれたこの山城は、交通の要衝として極めて重要な地理にありました。城の北側には碓氷道や東山道が、南側には中山道が通り、物資や人の往来を監視・制御する役割を担っていました。また、西の要害である碓氷峠への備えという戦略的な意味合いも強く持っていました。

松井田城は、東西およそ1.5キロメートル、南北約1キロメートルに広がる広大な城域を持ちます。東西に長く伸びる主尾根を城郭として巧みに利用しており、南側は断崖となっているのに対し、北側はなだらかな枝尾根が扇状に広がっています。これらの枝尾根もまた、多数の曲輪や堀切などが配され、城郭の一部として活用されました。

この城は、複数の郭が連携して機能する「別城一郭」と称される複合城郭の形態をとっています。城の東端には浅間出丸が配され、尾根の東半分には安中郭が、西半分には大道寺郭が位置しています。東側の安中郭は安中氏によって築かれた主要部分であり、一方の大道寺郭は後北条氏時代に整備されたと考えられています。

歴史

松井田城の築城時期は、永禄年間初め（1560年頃）と推測されていますが、それ以前からこの地には城が存在していました。長享元年（1487年）には安中忠親が城主を務めた松井田西城や、松井田諏訪氏（長野憲業の庶弟とされる諏訪明尚らが知られる）の居城であった諏訪城の存在が確認されており、これらのうちのどちらかが、現在の松井田城の原型になった可能性があります。

その後、再び安中氏が松井田の地を支配したと考えられており、安中忠清の子である安中忠政が安中城を築城した際に、子である忠成を安中城に置く一方、自身は松井田城を改修して居城としたと伝えられます。これは、勢力を拡大する武田信玄の西上野進出に対抗するための動きであり、この時期に松井田城の本格的な整備が進められたと推測されます。

永禄7年（1564年）、武田氏の西上野侵攻が本格化すると、松井田城は武田氏の攻勢を受け開城し、その支配下に入りました。城主であった安中忠政は抵抗を続けたため、降伏後に松井田城を没収されただけでなく、出家・隠居を強いられました。一方、子の忠成は早期に降伏したことで安中城の支配継続を許されています。松井田城は武田氏の家臣である小山田虎満に与えられ、その後は子の昌成が城主となりました。安中忠成は天正3年（1575年）の長篠の戦いで、小山田昌成は天正10年（1582年）の高遠城の戦いでそれぞれ戦死を遂げています。

天正10年（1582年）3月に武田氏が滅亡すると、松井田城は一時、後北条氏に通じた後閑氏によって占拠されますが、間もなく織田信長の家臣である滝川一益の軍に奪い返されました。城は滝川一益の与力であった津田秀政に与えられ、秀政によって後閑城も攻略されています。しかし、同年6月に本能寺の変で織田信長が死去し、続く神流川の戦いで滝川一益が後北条氏に敗れて上野国から撤退すると、後北条氏の軍勢が松井田城に入り、大道寺政繁が城代に任じられました。

後北条氏は天正壬午の乱において碓氷峠を越えて東信濃へ進出しますが、徳川家康との和睦によって撤退を余儀なくされ、碓氷峠が後北条氏領国の境界線として確定しました。このため、大道寺政繁は国境の守りとして松井田城の大改修を行いました。今日見られる主要な遺構は、この時の改修によるものとされています。

天正17年（1589年）、豊臣秀吉による小田原征伐が始まると、前田利家、上杉景勝、真田昌幸らを中心とした豊臣方の北国勢が松井田城への攻撃を開始しました。数千の兵が籠城する松井田城は堅固であり、翌年3月20日の総攻撃でも容易には落ちず、籠城側は徹底抗戦の構えを見せ、攻城側は持久戦に戦術を切り替えざるを得ませんでした。約一ヶ月に及ぶ攻防の末、4月22日に城代大道寺政繁はついに降伏を決断。松井田城は豊臣側に明け渡され、その役目を終え廃城となりました。

現在、大道寺政繁の居館跡には、政繁の菩提寺である補陀寺が建立されています。

歴代の主な城主・城代

安中忠政（山内上杉氏系）
小山田虎満（武田氏系）
小山田昌成（武田氏系）
後閑某（後北条氏系）
津田秀政（織田氏系）
大道寺政繁（後北条氏系）

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