松倉城の戦い

松倉城の戦い

松倉城の戦いは、永禄12年（1569年）に幕を開け、元亀4年（1573年）にかけて約四年にわたり、越後国の戦国大名として名高い上杉謙信と、越中国新川郡にあった松倉城の城主・椎名康胤（しいなやすたね）の間で戦われた一連の軍事衝突です。戦いの舞台となった松倉城は、現在の富山県魚津市に位置する山城であり、越中三大山城の一つにも数えられるほどの天然の要害として知られていました。

当時の松倉城主であった椎名康胤は、越中国における守護代という重職にありましたが、越中国内では同じ守護代である神保長職（じんぼうながもと）と激しく対立し、劣勢に立たされていました。特に、永禄5年（1562年）9月の神通川（じんづうがわ）における合戦では大敗を喫し、本拠である松倉城の城下まで敵の侵攻を許すという窮地に陥りました。この時、康胤は越後の上杉謙信に救援を求め、その援軍を得て神保長職の勢力を神通川より西方へ退けることに成功します。これにより、康胤は一時的に危機を脱しましたが、神保長職の勢力が完全に駆逐されたわけではなく、越中国内における自身の立場が期待通りに回復しなかったことから、康胤は上杉謙信の処置に対して不満を抱くようになったとされています。また、謙信が越中に対する影響力を強めることに警戒心を抱いたとも考えられます。

このような背景のもと、永禄11年（1568年）、椎名康胤は越後の上杉謙信に対し明確な敵対行動を起こします。彼は、当時上杉謙信と対立していた甲斐国の武田信玄（たけだしんげん）と密かに手を結び、謙信に反旗を翻したのです。これに対し、上杉謙信は越中への出兵を決め、永禄12年（1569年）には椎名康胤の本拠である松倉城への攻撃を開始しました。しかし、松倉城は前述の通り、周囲を険しい山々に囲まれた天然の要害であり、容易には落とせる城ではありませんでした。上杉軍は強固な守りに阻まれ、百日間に及ぶ長期の攻囲戦を展開しましたが、ついに城を落とすことは叶わず、謙信は越後へ兵を引き上げざるを得ませんでした。この後、両者の間には一時的に和睦が成立したようです。

しかし、この平和は長く続きませんでした。元亀3年（1572年）5月、椎名康胤は再び上杉謙信に対し反乱を起こします。この再度の挙兵は、当時武田信玄が推し進めていた、京都を目指す大規模な西方侵攻作戦（西上作戦）への支援という側面がありました。康胤は、武田信玄の動きに呼応する形で越中に侵攻してきた加賀国の一向一揆勢力と連携し、上杉領への圧力を高めようとしました。上杉謙信は、まず一向一揆勢力の鎮圧に乗り出し、苦戦を強いられながらもこれを撃破しました。その後、謙信は再度敵対した椎名康胤を討伐するため、再び松倉城へと軍を進め、康胤を城内に追い詰めます。

上杉軍による第二次松倉城攻囲が続く中、戦況に大きな影響を与える出来事が起こります。西上作戦を敢行中であった武田信玄が、元亀4年（1573年）に病のために死去したのです。後ろ盾を失った椎名康胤は窮地に陥り、ついに同年の正月に上杉謙信に降伏することを決意しました。これにより松倉城は開城され、約四年に及んだ松倉城を巡る戦いは終結を迎えました。椎名康胤のその後の消息については諸説あり、定かではありませんが、この戦いの終結をもって越中国における上杉氏の支配力がより強固なものとなっていきました。

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