松尾城 (上総国)

松尾城（まつおじょう）

松尾城は、現在の千葉県山武市松尾町に存在した日本の城です。この城は、明治維新期の激動の中で、柴山藩（後に松尾藩と改称）によって築城が試みられました。しかし、その完成を見ることなく、廃藩置県という時代の大きな転換点を迎え、その歴史に幕を閉じました。松尾城は、その特異な歴史から「日本最後の城」と呼ばれることがあります。

歴史

松尾城の歴史は、明治元年（1868年）に遠江国掛川藩主であった太田資美が、明治政府の命により上総国武射・山辺郡内の領地に移封されたことに始まります。この移封によって成立したのが柴山藩です。当初、藩庁は武射郡柴山村（現在の千葉県山武郡芝山町）の観音教寺に仮に置かれましたが、版籍奉還後の明治2年（1869年）6月、太田資美は知藩事に任命され、正式な藩庁を建設する必要に迫られました。同年9月、築城工事が開始され、大堤・田越・猿尾・八田の4か村の入会地がその地に選ばれました。

築城は急ピッチで進められ、翌明治3年（1870年）には藩庁と知事邸、そして城下町が一応の完成をみました。このタイミングで、藩の名称も柴山藩から松尾藩へと改称されています。しかしながら、城郭全体は未完成のまま、明治4年（1871年）7月の廃藩置県によって松尾藩は廃止され、築城も中止されることとなりました。松尾藩庁はその後、松尾県庁として使用されましたが、同年11月には松尾県自体が木更津県に合併され、その歴史に幕を下ろしました。廃城後、城内の建物や各所は払い下げられ、移築されました。

構造・計画

松尾城の築城・設計の責任者は、藩勘定奉行の犬塚一郎治でした。また、縄張は藩校の教授であり、算術に長けていた磯辺泰が担当しました。松尾城の特徴は、函館五稜郭や龍岡城などに見られる西洋風の稜堡式を取り入れつつも、より進んだ多角形要塞となっていた点です。九十九里浜を望む木戸川東岸の台地上に築かれ、中央の最高地には藩庁が、土塁で区切られた場所には太田家の家紋にちなんだ「桔梗台」と名付けられた台地が造成され、その上に藩知事邸が建てられました。また、長屋門も設置されました。その他、城内には兵舎や物産会所、米倉などが建設され、郭外には侍屋敷が町割りされ、土塁と堀で囲まれる計画でした。

現在

現在、城跡の敷地の一部は住宅地となっています。藩庁跡地は松尾自動車学校の敷地となり、「松尾藩公庁跡」の碑がその歴史を伝えています。また、知事邸跡地には1959年（昭和34年）に松尾町立（現・山武市立）松尾中学校が開校し、1970年（昭和45年）には城郭南端部を含む土地に千葉県立松尾高等学校が移転してきました。1994年（平成6年）には松尾中学校の改築に伴い発掘調査が行われ、城下の侍屋敷の遺構や土塁跡が多数発見されました。これらの発掘調査から、松尾城の当時の姿を垣間見ることができます。現在でも、匝瑳市内に知事邸が、山武市内に長屋門がそれぞれ現存しており、往時の面影を偲ぶことができます。

松尾城は、その短い歴史の中で、日本の近代化という大きな波に翻弄された城郭でした。しかし、その特異な構造や計画は、日本の城郭史において特筆すべき存在であり、今もなお、その歴史を語り続けています。

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