松山人車軌道

松山人車軌道：小さな町の大きな足跡

宮城県大崎市（旧志田郡松山町）に存在した松山人車軌道は、大正時代から昭和初期にかけて、地域住民の生活を支えた貴重な交通手段でした。本稿では、その歴史から車両、そして現在に残る資料まで、詳細にわたって解説します。

1. 歴史：城下町と鉄道の狭間で

松山町の歴史は室町時代、遠藤盛継が築いた千石城にまで遡ります。江戸時代には仙台藩の茂庭氏が治め、街道の要衝として栄えました。明治23年には町制を施行。東北本線の開通により交通の便は向上しましたが、駅が町から離れていたため、町と駅を結ぶ新たな交通手段の必要性が生じました。

この課題解決に尽力したのが、後の社長となる松本善右衛門氏と、鉄道院勤務経験を持つ佐々太一郎町長でした。馬車鉄道と人車を比較検討した結果、経済性を重視し、人車軌道建設に着手することになりました。鉄道省や内務省からの反対を押し切り、大正11年、条件付きながら許可を得て、松山人車軌道株式会社が設立されました。

資本金2万円、建設費1万704円で、大正11年11月3日、松山人車軌道は開通しました。開通式典には華やかな装飾が施された車両が使用され、町民の期待の高さが伺えます。大人20銭、小人10銭の運賃は、当時としては決して安くはありませんでしたが、町と駅を繋ぐ貴重な交通手段として、多くの利用者を集めました。

昭和4年、人車による営業は終了しましたが、会社は「人車軌道」の名称のままバス事業に転換し、周辺地域への路線バスを運行しました。そして昭和20年、運輸局からの統合指令を受け、仙北鉄道に吸収合併され、会社は解散しました。

2. 路線と運行：町と駅を繋ぐ生命線

松山人車軌道は、軌間610ミリメートルの単線路線でした。当初は松山町駅から文化丁角まででしたが、後に横町角まで延伸されました。4両の人車と3両の貨車を保有し、車夫が人力で運行していました。2.5キロメートルの路線を約15分、1日15往復ほどの運行で、平均80人の乗客を輸送していました。悪天候時には、2人の車夫が協力して人車を押し、運行を維持しました。

3. 車両：シンプルな構造と高い実用性

全長1.82メートル、幅1.21メートル、高さ1.82メートルの車体は、定員8名、最大15～16名乗車可能でした。一部では、帝釈人車鉄道で使用されていた車両が流用されたとの説もありますが、車体構造に違いが見られます。

4. 現存車両：歴史を語り継ぐ証

4両あった人車のうち、2両は廃止時に解体されましたが、残りの2両と複製された1両の計3両が現在も保存されています。

鉄道博物館（埼玉県さいたま市）: 廃止後、町内の神社境内に置かれていた車両が、NHK仙台中央放送局を経て、修復され展示されています。
大崎市松山ふるさと歴史館（宮城県大崎市松山千石）: 小牛田町で監視小屋として使われていた車両を復元したものです。
* 大崎市松山酒ミュージアム（宮城県大崎市松山千石）: ふるさと歴史館の復元車両を元に、JR東日本仙台総合車両所が複製したものです。

これらの車両は、松山人車軌道の歴史と、人々の生活を支えた人車の姿を今に伝えています。

5. まとめ：小さな軌道の大きな遺産

松山人車軌道は、その短い歴史の中で、地域住民にとって欠かせない交通手段でした。人車というシンプルな技術を用いながらも、効率的に町と駅を結び、地域社会の発展に貢献しました。現在、残された車両や資料は、その歴史と技術を後世に伝える貴重な遺産となっています。そして、その歴史は、現代社会における地域交通のあり方について、改めて考えるきっかけを与えてくれます。

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