松山大空襲

松山大空襲

松山大空襲は、第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）7月26日深夜から翌27日未明にかけて、愛媛県松山市が受けた壊滅的な空襲を指します。この攻撃により、市街地の大部分が焼失し、多くの尊い命が失われました。この記事では、松山大空襲を中心に、終戦間近の時期に愛媛県内の各都市が経験した他の主要な空襲についても概説します。

松山大空襲の概要と被害

1945年7月26日深夜、アメリカ陸軍航空軍のB-29爆撃機128機からなる編隊が、豊後水道を北東へ進み、佐田岬を経由して松山市西方の上空に飛来しました。空襲警報の発令からおよそ30分後の午後11時30分頃、最初の焼夷弾が新町（現在の清水町1丁目付近）に投下されました。その後、爆撃機群は右旋回しながら城山を中心に約2時間にわたり攻撃を続け、合計896トンの焼夷弾が市街地に降り注ぎました。

この空襲による被害は甚大でした。確認された死者は251人（男性117人、女性134人）に上り、8人が行方不明となりました。負傷者の数は、あまりに多すぎて全容を正確に把握することが困難であったとされています。旧市街の大部分、特に城北地区や通町（現在の平和通2丁目付近）の一部を除いて、市街地は一面の焼け野原と化しました。全戸数のおよそ55％にあたる1万4,300戸が被災し、人口の約53％にあたる6万2,200人が家を失うなど、大きな打撃を受けました。

幸いにも、県庁や市役所、裁判所、図書館、日本銀行松山支店、四国銀行本店などの公共施設は焼失を免れ、戦後の復興事業において重要な役割を果たしました。大空襲の翌日、当時の愛媛県知事であった土肥米之は、「必勝の信念を高め、皇土の防衛と聖戦の完勝を期そう」と市民に向けて訓示を発しました。

アメリカ軍の作戦任務報告書によると、この松山への爆撃はミッション293として記録されており、1945年7月26日午後11時8分から翌日午前1時18分（日本時間）にかけて、第21爆撃集団所属の第73爆撃団によって実行されました。投下された焼夷弾は、AN-M17A1、E-46、E-36、AN-M47A2など多種にわたり、その総量は正確に896.0米トンでした。

松山市は、この大空襲以外にも空襲を受けています。最初の偵察飛行は1945年2月10日に行われ、1機のB-29が飛来しました。松山市への初空襲は同年2月17日、アメリカ軍艦載機による松山海軍航空隊基地への爆撃でした。5月4日朝には、17機のB-29が再び松山海軍航空隊基地を爆撃し、この攻撃で死者76人、行方不明者3人、重軽傷者169人という被害が発生しています。

愛媛県下のその他の空襲

今治市への空襲

今治市もまた、終戦間際に度重なる空襲に苦しみました。1945年4月26日には4機のB-29が飛来し、60発の爆弾を投下。この空襲で死者68人、重軽傷者34人などの被害が出ましたが、これ以上の犠牲者や家屋被害を伝える説もあります。5月8日にも空襲があり、死者29人、重傷者4人、全壊家屋43戸、半壊家屋98戸の被害が出ました。最も大きな被害をもたらしたのは、終戦間近の8月6日午前0時5分から約40分間にわたる空襲です。第58爆撃団のB-29爆撃機64機が市街地を襲い、死者454人、重傷者150人という多数の犠牲者を出しました。全焼家屋は8,199戸（別説あり）に達し、市街地の実に80％が焼失。被災者は3万4,200人に及びました。この空襲の犠牲者には、松山高等女学校や松山城北高等女学校から学徒動員されていた女子生徒や、沖縄から動員された女子工員も多数含まれていました。この攻撃は、第21爆撃軍団作戦任務報告書ではミッション316として記録されており、M19、T4E4、AN-M64など合計510.0米トンの焼夷弾が投下されました。今治市別宮山南光坊には、この戦災を記憶するための「今治市戰災の碑」が2008年3月に建立されています。

宇和島市への空襲

宇和島市もまた、複数回にわたって空襲を受けました。最初の大きな空襲は1945年5月10日で、この攻撃により死者115人、重軽傷者81人という被害が発生しました。宇和島市はその後も9回もの空襲を受け、特に1945年7月28日から29日にかけては、アメリカ軍が津、青森、一宮、宇治山田、大垣といった他の都市とほぼ同時に宇和島を空襲しています。

その他の地域

松山、今治、宇和島の他にも、愛媛県では八幡浜市、新居浜市、西条市といった都市が空襲による被害を経験しています。

愛媛県が空襲の標的となった背景

愛媛県が空襲の標的となった背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、松山市には海軍航空隊基地が存在し、軍事拠点として狙われやすかったこと。次に、県内に重工業や軍需生産に関わる都市が点在しており、日本の戦争遂行能力を削ぐ戦略的目標とされ得たこと。さらに、アメリカ軍の主要な航空路の一つであった豊後水道に面していたことも、標的となりやすかった理由の一つと考えられます。

愛媛県各地への空襲は、多くの市民の命を奪い、生活基盤を破壊しました。これらの記憶は、二度とこのような悲劇を繰り返さないための教訓として、後世に語り継がれるべきものです。

（参考文献、脚注、関連項目、外部リンクは省略）

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