松岡館

越前松岡藩の拠点、松岡陣屋：短い歴史と深い余韻

福井県永平寺町松岡地区にあった松岡陣屋は、越前松岡藩の藩庁として知られています。正式名称は松岡御館でしたが、後に松岡館と呼ばれるようになりました。現在の永平寺町松岡地区は、九頭竜川南岸の河岸段丘上に位置し、その地形と松平氏の家紋にちなみ「松岡」と名付けられたと伝えられています。

松岡藩の成立は、越前福井藩第3代藩主・松平忠昌の死（1645年）に遡ります。忠昌の庶長子、松平昌勝に福井藩領の一部（足羽郡、吉田郡、丹生郡、坂井郡、今立郡、南条郡、大野郡の108村、5万石）が分知され、新たな藩が誕生しました。しかし、格式上城主格ではなかったため、城郭の建設は許されず、代わりに藩主の居館と政庁を兼ねる陣屋が建設されることになりました。

陣屋の建設は慶安元年（1648年）11月に開始されました。担当したのは、福井藩から松岡藩に仕えた軍学者、片山良庵です。陣屋の縄張りは、二重の四角形という簡素なものでした。中心となる御館は7780坪の広さを誇り、周囲には土塁と水堀が巡らされ、内側は「御構之内」、外側は「御構之外」と呼ばれていました。「御構之内」には123の侍屋敷が、「御構之外」には軽輩の屋敷（御徒屋敷20、御坊主屋敷9、足軽屋敷125など）が配置されていました。

承応3年（1654年）6月、松平昌勝が松岡藩に入部し、藩政が始まりました。しかし、元禄6年（1693年）7月に昌勝が亡くなると、三男の松平昌平（後の松平宗昌）が2代藩主を継承しました。享保6年（1721年）、福井藩主松平吉邦の死により、昌平が福井藩を継ぐことになり、松岡藩は廃藩となりました。わずか50年余りの歴史でした。

松岡陣屋は廃されてからも、その痕跡は町の風景に残り続けています。作家司馬遼太郎は、『街道をゆく』の中で、松岡の町を「古雅なおもむき」があり、「災害の多かった福井、大野、勝山といった城下町よりも、はるかにそれらしいにおいがある」と評しました。現在、陣屋の跡地には、初代藩主松平昌勝が愛したと伝えられる椿「お館の椿」（町指定天然記念物）が静かに咲いています。この椿は、短いながらも深みのある歴史を刻んだ松岡藩、そして松岡陣屋の面影を今に伝えています。

松岡陣屋の短い歴史は、近世日本の藩政史における特異な事例と言えるでしょう。城郭ではなく陣屋を拠点とした藩のあり方、そして廃藩後の町の変遷は、歴史研究において重要なテーマとなっています。また、司馬遼太郎の評価にも示されるように、松岡の町は、その歴史的背景と自然環境が織りなす独特の雰囲気を持つ、魅力的な場所と言えるでしょう。

もう一度検索