松崎万長

松崎万長：ドイツ建築の巨匠、波乱の生涯

松崎万長(1858-1921)は、明治時代の日本を代表する建築家であり、男爵の爵位を有する華族でした。ドイツ様式の建築に造詣が深く、数々の重要な建築物を設計・建設したことで知られています。

華族としての出自と欧州留学

京都の堂上公家・堤哲長の次男として生まれた松崎万長は、幼少期を甘露寺勝長の養子として過ごしました。孝明天皇の遺詔により堂上に列せられ、後に松崎家を創設、30石3人扶持を賜るなど、恵まれた環境で育ちました。

明治4年(1871年)、岩倉使節団の一員としてドイツに渡航。その後、ベルリン工科大学で建築を学びました。同大学では、著名な建築家ヘルマン・エンデに師事し、ドイツ建築の技術と美意識を深く習得しました。明治17年(1884年)には男爵位を授与され、翌年帰国しました。

官庁建築と造家学会への貢献

帰国後、松崎万長は皇居造営事務局や内閣臨時建築局に勤務。官庁集中計画に携わり、その経験と知識を活かして、ドイツ人建築家エンデやベックマンらを招聘するなど、近代日本の建築行政に大きく貢献しました。

また、明治19年(1886年)には、辰野金吾、河合浩蔵、妻木頼黄らと共に造家学会(後の日本建築学会)の創立委員となり、日本の建築界発展の礎を築きました。同年の創立委員会は、なんと松崎万長の邸宅で開催されたという逸話も残されています。

晩年と建築作品

しかし、明治26年(1893年)には家資分散の宣告を受け、明治29年(1896年)には経済的な理由から爵位を返上するという波乱の展開も経験しました。その後も建築家として活躍を続け、明治34年(1901年)には仙台に移り住み、七十七銀行本店の設計などにも携わっています。

晩年には台湾総督府鉄道局に勤務し、基隆駅や新竹駅など、台湾の鉄道建築にも貢献しました。大正10年(1921年)、東京で亡くなりました。

松崎万長の建築的遺産

松崎万長は、単なる建築家としてだけでなく、近代日本の建築行政や建築教育にも多大な貢献をしました。ドイツ建築の技術を日本に導入し、数々の官庁建築や公共施設を設計した彼の功績は、今日の日本の建築界に大きな影響を与え続けています。彼の設計した建物は、その洗練されたデザインと堅牢な構造から、現在も多くの場所で現役として活躍しています。

彼の生涯は、華族としての栄光と爵位返上の苦悩、そして建築家としての揺るぎない情熱と才能が複雑に絡み合った、ドラマチックなものでした。彼の功績は、単なる建築物にとどまらず、近代日本の建築史に深く刻まれたものと言えるでしょう。

参考文献

日本建築学会『日本建築学会80年略史(1886-1966)』
岡田義治・柴田智男『栃木の建築文化・青木周蔵那須別邸ー青木周蔵と松ヶ崎萬長ー』
岡田義治・初田亨『松ヶ崎萬長の経歴と作品』
岡田義治・磯忍『青木農場と青木周蔵那須別邸』
* 霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 下巻』

もう一度検索