松平近義

松平近義（まつだいら ちかよし）は、江戸時代後期、豊後国府内藩の第七代藩主として歴史に名を刻んだ人物である。親清流大給松平家の第十一代当主にあたる。その生涯は短く、藩主としての治世もわずか三年余りであったが、彼の置かれた特殊な立場は、当時の藩における家督相続の複雑な事情を垣間見せる。

明和七年（1770年）四月一日、近義は府内藩第五代藩主であった松平近形の三男として誕生した。幼少期から青年期にかけての詳しい記録は多くないが、大名の子息として一定の教育を受けたと推測される。彼は兄である第六代藩主、松平近儔の養子となった。近儔には実子である近訓がいたが、家督を継ぐにはまだ若年であったため、一時的な中継ぎとして近義に白羽の矢が立ったのである。

文化元年（1804年）十二月六日、養父であり兄でもある松平近儔が隠居したことに伴い、近義は家督を相続し、豊後府内藩の第七代藩主となった。この時、近義は数え年で三十五歳であった。藩主就任から間もない同月十五日には、朝廷より従五位下の位階を与えられ、さらに主膳正に任官している。これは江戸時代の大名としては一般的な官位叙任であり、正式な藩主として認められたことを意味する。

しかし、近義が藩主となった背景には、前述の通り次期藩主となるべき松平近訓の成長を待つという明確な目的があった。そのため、名目上は藩主であったものの、藩政の実権は隠居した近儔が引き続き掌握していたとされる。近義自身がどれほど藩政に関与できたのか、あるいは関与する意思があったのかは定かではないが、彼の立場はあくまで近訓への円滑な継承を保証するための中継ぎに過ぎなかった。この状況は、当時の大名家における隠居後の影響力や、幼い嫡子の存在が家督相続に与える影響を示す一例と言えるだろう。

近義の藩主としての治世は、驚くほど短いものとなった。文化四年（1807年）八月二十七日、彼は江戸への参勤交代の途上、駿河国岡部宿（現在の静岡県藤枝市岡部町）において突然病に倒れ、そのまま急逝した。享年三十八という若さであった。藩主が参勤交代中に客死するという事態は、藩に動揺をもたらしたであろう。

近義には実子はいなかったため、彼の死後、予定通り養子となっていた松平近訓が家督を相続し、第八代藩主となった。近訓は近義の養父である松平近儔の実子であり、もともと次期藩主として期待されていた人物である。近義の藩主就任は、この近訓が藩主の責務を果たせる年齢になるまで、藩主の座を空席にしないための措置であったことが、その短い治世と急死後の展開から改めて確認できる。

松平近義の実父は第五代藩主の松平近形であり、養父は第六代藩主の松平近儔である。そして、養子として家督を継いだのが近儔の次男にあたる松平近訓であった。彼の生涯は、自らの意志や能力以上に、家内の事情、特に次期藩主候補の年齢という要因に大きく左右されたと言える。藩主という重責を担いながらも、実権を伴わない「つなぎ」としての役割を終える前に、不慮の死を遂げた松平近義。彼の名は、府内藩の歴史において、わずか三年余りの短い治世と、その特殊な立場を示す存在として記憶されている。

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