松平近形

松平 近形

江戸時代中期、豊後国（現在の静岡県の一部、大分県の一部）に位置した府内藩において、第5代の藩主として政務を執ったのが松平近形（まつだいら ちかのり）です。親清流大給松平家の9代当主にあたり、従五位下・主膳正の官位を有していました。

略歴

松平近形は、第4代藩主である松平近貞の長男として生まれました。幼少期には家臣である津久井氏のもとに預けられ、「津久井桃之助」という名で過ごしたと伝えられています。享保13年（1728年）に実家である藩主家に帰還しました。

延享2年（1745年）9月18日、父である近貞が隠居したことに伴い、家督を継承し、府内藩主となりました。

藩政への取り組みと困難

藩主就任時、府内藩の財政状況は先代からの課題として深刻な状態にありました。近形は、この危機的な状況を立て直すべく、積極的な藩政改革に着手します。主な施策としては、厳しい倹約令を核とした法規の制定、産業の振興策、そして藩内の経済循環を促すための藩札発行などが挙げられます。

しかし、藩政改革は多くの困難に直面することになります。

まず、宝暦11年（1762年）3月には、幕府直轄領であった赤松村の農民と藩側の間で、銭瓶石騒動に関連する刃傷事件が発生しました。この事態に対し、幕府は近形に2ヶ月間の逼塞（ひっそく、自宅謹慎）という処分を下します。藩主が幕府から処分を受けることは、藩の権威失墜につながりかねない事態でした。

さらに、藩は相次ぐ自然災害に見舞われます。明和2年（1765年）には領内を大洪水が襲い、続いて明和6年（1769年）7月には大地震が発生し、藩領は甚大な被害を受けました。これらの度重なる災禍は、復興のための出費を増大させ、財政再建の努力を阻む大きな要因となりました。

隠居と晩年

度重なる不運と、それに伴う藩政改革の遅滞、そして何よりも財政再建という目標がなかなか達成できない状況は、近形にとって大きな失意となりました。こうした状況の中、明和7年（1770年）7月21日、近形は家督を長男の近儔に譲り、藩主の座から退きました。

隠居後は、藩政から離れて静かに過ごしたと思われます。そして、安永2年（1773年）6月10日（一説には6月7日）、数え年51歳でその生涯を閉じました。

系譜

父：松平近貞
正室：牧野明成の娘
子女：
松平近儔（長男）
蒔田定祥
松平近義（三男）
酒井忠恭継室
紀井（酒井忠崇正室）

松平近形の治世は、財政再建への強い意志とは裏腹に、外部要因による困難が続いた時代でした。その生涯は、江戸時代における地方藩主が直面しうる厳しい現実の一端を示しています。

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