松平近訓

松平 近訓

松平 近訓（まつだいら ちかくに）は、江戸時代後期に豊後国府内藩の第8代藩主を務めた人物です。親清流大給松平家の第12代当主にあたります。官位は従五位下、左衛門尉でした。

寛政11年（1799年）3月6日、府内藩の第6代藩主であった松平近儔の次男として生まれました。幼い頃から藩主となる運命を背負い、文化4年（1807年）に叔父である第7代藩主の近義が死去すると、その養嗣子として藩主の座を継ぐことになります。同年の12月13日には、朝廷より従五位下、左衛門尉の官位を与えられました。

藩主となった当初、近訓は既に隠居していた実父の近儔と協力して藩政に臨みました。しかし、この時期の府内藩は、文化8年（1811年）に発生した百姓一揆や、文政元年（1818年）のいわゆる「銀札崩れ」に見られるような深刻な財政危機など、極めて多難な状況に直面していました。藩の財政は窮乏し、領民の不満も高まっていました。

近訓はこうした困難な状況を打開すべく、藩財政の再建を目指した藩政改革に着手しようとします。しかし、その改革の方針を巡って、隠居ながら影響力を持っていた父の近儔と意見が対立するようになりました。この父子間の確執は深まり、結局、天保2年（1831年）2月24日、近訓は父の命により、養嗣子の近信に家督を譲り、隠居を余儀なくされました。藩主としての治世は24年間に及びましたが、多くの課題を残したまま藩主の座を離れることになったのです。

しかし、近訓の藩政への関与はこれで終わったわけではありませんでした。天保11年（1840年）に父の近儔が死去すると、隠居の身ながら再び藩政の実権を掌握するようになります。その後、家督を継いだ第9代藩主・近信、さらに第10代藩主となった近説の治世においても、嘉永5年（1852年）3月20日に自身が世を去るまでの長きにわたり、藩政の重要な局面において指導的な役割を果たしました。享年54。

藩の財政状況がいかに厳しかったかを示す逸話として、こんな話が伝えられています。養嗣子であった近信が死去し、藩の後継者問題が発生して藩内が混乱した際、近訓は事態を収拾するために江戸から府内へ帰国しようとしました。しかし、当時の府内藩の財政は破綻寸前であり、近訓が帰国するための旅費すら容易に調達できないほどの窮状でした。このため、近訓は江戸石原にあった藩の屋敷を売却して、ようやく旅費を工面したといいます。このエピソードは、近訓が生きた時代の府内藩が抱えていた深刻な財政難の内情を雄弁に物語っています。

系譜

父母

実父：松平近儔
実母：松平乗佑の娘
養父：松平近義

正室

石川総師の娘

子女

長男：増沢近篤

養子・養女

養子：松平近信（前田利幹の次男）
* 養女：松平近信室（松平近儔の娘）

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