松旭斎天勝

初代松旭斎天勝：奇術界の革命児、その華麗なる生涯

初代松旭斎天勝（1886年 - 1944年）は、明治後期から昭和初期にかけて、奇術界に旋風を巻き起こした女性奇術師です。本名を金沢カツといい、その美貌と革新的な舞台演出で、観客を魅了しました。

波瀾万丈な少女時代

天勝は、東京神田で質屋の娘として生まれましたが、家業の失敗により、門前仲町の天ぷら屋に奉公に出されます。そこで、店主が当時の著名な奇術師、松旭斎天一であったことが、彼女の人生を大きく変えるきっかけとなりました。天一に才能を見出された天勝は、弟子として迎えられます。その後、天一から妾になるよう迫られ自殺未遂を起こすも、一命を取り留め、奇術に打ち込むことを決意しました。

スター奇術師への道

70人もの弟子を抱える「天一一座」の中で、天勝はめきめきと頭角を現し、「天勝」の名で舞台に立つようになりました。日本人離れした容姿と愛らしい美貌で人気を博し、アメリカでの興行も成功させます。帰国後には、スパンコールの衣装や付けまつげなど、欧米風の要素を取り入れた斬新なマジックショーを披露し、大衆を熱狂させました。

「天勝一座」の座長として

1911年、27歳で独立した天勝は、100名を超える座員を抱える「天勝一座」を率いる座長となります。一座のマネージャーを務めた野呂辰之助と結婚しますが、これは、奇術師の地位がまだ確立されていなかった当時、一座と天勝の名を守るための便宜的な入籍であったと言われています。

「奇術といえば天勝」

「奇術といえば天勝」と言われるほど、彼女の名は広く知れ渡り、キャラクター商品も大ヒットしました。得意芸は水芸で、その人気にあやかった偽物の「天勝一座」も現れたほどです。

引退、そして晩年

1936年、天勝は引退し、姪の正天勝に二代目天勝の名を譲ります。50歳を過ぎてから、スペイン語学者の金澤一郎と出会い、結婚。晩年は、夫と共に静かに暮らしました。1944年11月11日、目黒の自宅で病没。その墓は台東区の西徳寺にあります。また、夫の菩提寺である萬福寺にも分骨され、墓が設けられています。

天勝の遺産

天勝の弟子には、二代目松旭斎天花がいます。また、女流イリュージョニストである二代目引田天功（プリンセス・テンコー）の師である初代引田天功は、天勝の弟弟子である松旭斎天洋の門下であり、彼女もまた「松旭斎一門」の系譜を受け継いでいます。女優の桜むつ子も、一時「松旭斎文子」の名で天勝に師事していました。

天勝の美貌は人々を魅了し、彼女にまつわる様々な逸話が生まれました。「前歯にダイヤモンドの差し歯をしていた」「人魚の肉を食べていた」など、奇想天外なエピソードが語り継がれています。

映画出演

天勝は、映画にも出演しており、「魔術の女王」（1936年）や「世紀は笑ふ」（1941年）でその姿を見ることができます。

初代松旭斎天勝は、奇術界に革命をもたらしただけでなく、大衆文化にも大きな影響を与えた人物として、今もなお語り継がれています。

参考文献
日本奇術協会監修『七十年の歩み：社団法人日本奇術協会創立七十周年記念誌』日本奇術協会、2006年。

関連項目
天勝野球団
仮面の告白（三島由紀夫の自伝的小説。天勝が登場する）

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