松本健次郎

松本健次郎：安川財閥を支えた実業家

松本健次郎（1870年10月28日 - 1963年10月17日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家であり、安川財閥の基礎を父・安川敬一郎と共に築き上げました。

生い立ちと教育

1870年、福岡藩（現在の福岡県福岡市中央区）で安川敬一郎の二男として生まれた松本健次郎は、福岡中学を卒業後、急性脚気により進学を断念。その後、上京して国民英学会に通い、英語を学びました。1890年には、安川敬一郎の兄である松本潜の養子となり、松本家に入籍。翌年には渡米し、ペンシルベニア大学に留学しました。

実業家としての手腕

帰国後、父と共に「安川松本商店」を設立。父が炭鉱経営を、健次郎がその販売を担当し、親子二人三脚で事業を拡大しました。1896年には門司に事務所を設置し、事業の拠点を築きました。

1907年、松本健次郎は技術者養成を目的として明治専門学校（現在の九州工業大学）を戸畑に設立。これは、日本の産業発展に貢献する人材育成への強い思いの表れでした。1908年には、父と弟と共に明治鉱業株式合資会社を設立し、炭鉱事業を本格化させました。明治専門学校は1909年4月に開校し、1910年には父と共に私立明治専門学校附属小学校（現在の明治学園）を創立し、初代理事長に就任しました。

1912年には、自宅兼迎賓館として旧松本家住宅を建築。この建物は、現在国の重要文化財として保存されています。

多岐にわたる事業展開

その後も、1918年にかけて明治紡績、安川電機、九州製鋼（のちに八幡製鐵所が買収）の設立に携わるなど、多岐にわたる事業を展開しました。また、黒崎窯業の設立や、帝国鋳物（現在の日立金属）、若松築港の社長も務めました。

中央政界への進出と晩年

昭和初期からは活動の場を中央に移し、日本工業倶楽部理事、石炭統制会会長、日本経済連盟会会長などを歴任しました。また、1945年から1946年にかけては貴族院勅選議員を務めましたが、後に公職追放となり、1951年に追放解除。1957年に財界を引退し、1963年に93歳で生涯を閉じました。

家族

松本健次郎は、二度の結婚を経験し、多くの子をもうけました。先妻の松本シズは養父・松本潜の娘。後妻は元帥海軍大将・井上良馨の娘である松本秀子。

長男の松本幹一郎は元明治鉱業社長、次男の松本兼二郎は元黒崎窯業会長、元八幡大学理事長、三男の松本馨は早稲田大学教授・東海大学教授、七男の松本七郎は衆議院議員を務めました。長女の黒田園子は、男爵・黒田稔の妻であり、タレントの板東英二の義母にあたります。

松本健次郎の血縁は、政財界、学術界、芸能界に広がり、その影響力の大きさを物語っています。

参考文献

早川隆『日本の上流社会と閨閥』 角川書店 1983年
佐藤朝泰『門閥 -旧華族階層の復権-』 立風書房、1987年
佐藤朝泰『豪閥 -地方豪族のネットワーク-』 立風書房、2001年
劉寒吉著『松本健次郎傳』松本健次郎傳刊行会、昭和43年、（私家版）

松本健次郎は、日本の近代化を支えた一人として、その名と功績は永く語り継がれることでしょう。

もう一度検索