松林伯圓

松林伯圓（しょうりんはくえん）

講談師の名跡であり、その歴史は三代にわたります。

初代 松林亭伯圓

初代 松林亭伯圓（1812年 - 1855年）は、本名を堀川源次郎といい、江戸南伝馬町の軍談席亭の息子として生まれました。軍談物や世話物を得意とし、当時人気を博していた一流亭文車と人気を二分するほどでした。しかし、晩年に中風を患い、安政の大地震で自宅にて圧死するという悲劇的な最期を迎えました。妻は仙石騒動で知られる仙石久寿の娘です。

二代目 松林伯圓

二代目 松林伯圓（1834年 - 1905年）は、はじめ手島達弥と名乗り、後に若林駒次郎と改名しました。名人とも称され、明治初期にかけて絶大な人気を誇りました。下館藩の郡奉行の四男として生まれましたが、幕府作事奉行の養子となり、その後、彦根藩の画家の養子となりました。しかし、講釈への情熱が捨てきれず、離縁。伯母の婚家に引き取られた後、初代伯圓の芸養子となり、1854年に二代目を襲名しました。

安政の頃には遊興に耽り困窮しましたが、知人の四代目市川小團次の紹介で寄席に出演。「小猿七之助」などの白浪物を語り、人気を博しました。特に「鼠小僧」「業平小僧」などの白浪物を得意としたことから「泥棒伯圓」という異名も持ちました。

1873年（明治6年）には浅草寺境内に新設された新聞訓読場で、新聞記事を元にした「新聞講談」を始めました。福沢諭吉の演説に感銘を受け、散切り頭で洋服を着て講談をするなど、新しいスタイルにも挑戦。「新聞伯圓」とも呼ばれました。佐賀の乱を題材にした「佐賀伝法録」や、「近世史略」「開花新話谷の鶯」など、時事ネタを取り入れた「正史講談」は、当時の人々の関心を集めました。また、西洋事情を平易に語る講談も人気を博し、「文明社会の大先達」とも評されました。自由民権運動が盛んになると、民権講談にも挑戦し、政府から教導師の地位を与えられました。その後、明治憲法発布後は、明治天皇の前で講談を行うなど、活躍の場を広げました。

1901年に舞台で倒れたため、弟子の右圓に伯圓の名を譲り、引退。二代目松林東玉を襲名し、1905年に中風で亡くなりました。

二代目は生涯で120を超える作品を口演したとされ、時代物や世話物だけでなく、70以上の新作を手がけ、講談の中興の祖とも称されています。創作した白浪物や、『天保六花撰』などは特に有名です。また、『小猿七之助』は、後に歌舞伎化もされました。落語の三遊亭圓朝、歌舞伎の九代目市川團十郎とともに「当時の三幅対」と称されました。没後、新聞では「旧来の講談を改良し、文明の思想を取り入れ、世の風教に貢献した」と高く評価されました。しかし、一部では、史実に基づかない脚色や、身分差別的な表現があることなどが批判されました。

三代目 松林伯圓

三代目 松林伯圓（1854年 - 1919年）は、本名を大宮庄次郎といい、下総野田の醤油醸造元の三男として生まれました。二代目の弟子の伯養が伯洋を経て松林右圓となり、右圓時代には『赤井景韶』『相馬事件』などの新講談で人気を博し、「下町の右圓」と呼ばれました。1901年に伯圓を襲名しましたが、2年後には講談師組合を除名されました。その後、伊藤痴遊らと一座を結成しますが振るわず、引退。二代目で隆盛を誇った松林一派は散り散りになりました。

まとめ

松林伯圓は、講談の世界において重要な名跡であり、各世代がそれぞれの時代で活躍しました。初代は伝統的な軍談や世話物を、二代目は新しいスタイルを取り入れ、講談を大衆娯楽として発展させました。三代目は新講談を追求しましたが、不遇な晩年を送りました。松林伯圓の名は、講談史において永遠に語り継がれることでしょう。

参考文献

尾崎秀樹『大衆文学』紀伊國屋書店 1964年
倉田喜弘『明治大正の民衆娯楽』岩波書店 1980年
* 篠田鉱造『明治百話（上）』岩波書店 1996年（「松林伯円の一生」）

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