松田康長

松田康長（まつだ やすなが）

松田康長は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将で、後北条氏の家臣として知られています。彼は、主に奏者や奉行衆として政務に携わり、寺社関連や楽市制度など、多岐にわたる分野でその手腕を発揮しました。彼の活動を示す発給文書が現在も残されており、当時の社会状況を研究する上で貴重な資料となっています。

生涯

松田康長は、後北条氏の家臣である松田康定（六郎左衛門、筑前守、頼貞）の長男として生まれました。早くから武将としての才能を示し、永禄2年（1559年）には『北条氏所領役帳』に御馬廻衆としてその名が記されています。この時、彼は約700貫文を領しており、若くしてその地位を確立していたことがわかります。

天正10年（1582年）には、神流川の戦いなどで武功を挙げ、その勇名を轟かせました。その後も、天正15年（1587年）には、豊臣氏との対戦に備えて山中城の構築に携わるなど、後北条氏の重要な局面で活躍しました。特に、天正17年（1589年）の豊臣秀吉による小田原征伐においては、山中城主として最前線で指揮を執りました。

この時、康長は、箱根ではなく足柄城や山中城で迎え撃つべきだと進言しました。その理由として、豊臣方の軍勢は補給が十分ではなく、兵糧不足により長期戦にはならないと分析し、豊臣方の物流力を過小評価していました。しかし、現実は彼の予測とは異なり、豊臣軍は圧倒的な物量を誇っていました。

天正18年（1590年）、山中城に豊臣秀次率いる約7万もの大軍が押し寄せました。康長は、城兵と共に奮戦しましたが、半日も経たずに城は落城し、康長も城兵と共に戦死しました。彼の享年は54歳とされています（北条氏文書による）。

康長の死後、その子である直長は徳川氏に仕え、康長の子孫は旗本として存続しました。このことは、彼の血筋が江戸時代を通じて武士として生き続けたことを示しています。

松田康長の評価

松田康長は、武将としてだけでなく、政務官としても非常に有能な人物でした。寺社関連の政策や楽市制度の推進など、彼の活動は多岐にわたり、後北条氏の統治機構を支える上で重要な役割を果たしました。小田原征伐では、山中城主として最期まで戦い抜いた彼の姿は、武士としての忠誠心と勇気を象徴するものとして語り継がれています。彼の生涯は、戦国時代から安土桃山時代にかけての激動の時代を生き抜いた武将の一つの典型を示すものと言えるでしょう。

出典

『戦国の魁早雲と北条一族―北条五代百年の興亡の軌跡』新人物往来社、2005年、ISBN 4404033168
『後北条氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2006年、ISBN 4490106963

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