松竹梅

松竹梅

松竹梅（しょうちくばい）は、日本において慶事や吉祥を願う際に用いられる伝統的な組み合わせであり、特別なシンボルとして親しまれています。厳寒期にも色褪せない常緑の松、真っ直ぐに伸びて強い竹、そして寒さの中で可憐な花を咲かせる梅という三つの植物を組み合わせた意匠や言葉は、生命力や節操、繁栄といった縁起の良い意味合いを持ち合わせています。祝い事の儀式や宴席での飾り付け、あるいは贈答品の装飾など、多岐にわたる場面でその姿を見ることができます。

この松竹梅の概念は、そのルーツを中国の「歳寒三友（さいかんさんゆう）」に求められます。これは、厳しい冬の寒さに耐え忍ぶ松、竹、梅を、逆境にあっても変わらぬ友、あるいは高潔な人格の象徴として讃えたものです。これが日本に伝わり、独自に発展して祝い事のシンボルとしての性格を強めていきました。

松竹梅をモチーフとした作品・表現

松竹梅は、視覚的な意匠だけでなく、音楽やその他の表現形式においても創作の源泉となってきました。特に、祝いの席で演奏される機会が多い楽曲群に見られます。

邦楽: 祝儀曲として重要な位置を占める作品が数多く存在します。
地歌・箏曲では、江戸時代の三つ橋勾当による古典「松竹梅」をはじめ、二代菊沢検校や菊塚検校による「新松竹梅」「明治松竹梅」、そして宮城道雄による箏二重奏曲「昭和松竹梅」や三つ橋勾当の曲を大合奏用に編曲した「編曲松竹梅」などが知られています。
河東節においても、四代目山彦河良による作品があります。
長唄では、二代目杵屋正次郎の「室咲松竹梅」、三代目杵屋正次郎の「君が代松竹梅」、十一代目杵屋六佐衛門の「三曲松竹梅」、十二代目杵屋六佐衛門の「新松竹梅」などが代表的なものです。

美術、意匠: 着物や陶磁器、漆器、建築装飾など、日本の伝統的な工芸品や美術品において、吉祥文様として広く採用されています。

切手: 日本郵便からは、慶事用の普通切手のデザインとして松竹梅が複数回採用されました。例えば、1982年（昭和57年）8月23日発売の70円切手、1989年（平成元年）8月10日発売の72円切手、1994年（平成6年）3月10日発売の90円切手などがあり、これらは額面や印刷色は異なりますが、同一の意匠が用いられました。

等級の呼称としての松竹梅

松竹梅は、本来の縁起物としての意味から転じ、物事の等級やランクを示す際にも用いられるようになりました。一般的には、最も優れたものを「松」、次に「竹」、そして「梅」とする三段階の序列が採られます。これは、Good-better-bestといった序列を示す際の日本語における慣用的な表現となっています。多くのケースでこの「松-竹-梅」の順序が採用されますが、例えば寿司店や鰻店など、特定の業界や店舗によっては「梅」を最上級とする例外も存在します。ただし、これはあくまで等級を示すための慣習であり、本来縁起物としての松竹梅に優劣の概念はありません。

また、歴史的な例として、江戸時代の著名な遊廓、例えば京の嶋原や大坂の新町では、遊女たちの階級を示すのにこの松竹梅の名称が当てられていました。具体的には、最高の位である太夫（たゆう）を「松」、それに次ぐ天神（てんじん）と呼ばれる階級を「梅」、そして囲（かこい）と呼ばれる階級を「竹」と称していたと記録されています。これは一般的な松竹梅の序列とは異なる特殊な例として知られています。

このように、松竹梅は単なる植物の組み合わせに留まらず、日本の文化や歴史において多様な意味合いと用途を持つ、奥深いシンボルと言えるでしょう。

関連項目

歳寒三友
天地人

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