板倉重種

板倉重種：栄光と転落の生涯

板倉重種は、江戸時代前期を代表する大名にして老中の一人です。下野国烏山藩を領したのち、武蔵国岩槻藩、そして信濃国坂木藩へと転封された人物で、その生涯は栄華と没落の両面を鮮やかに描き出しています。

板倉重矩の三男として生まれた重種は、当初は叔父である旗本・板倉重直のもとで養子として育てられました。しかし、兄たちの不幸が重種の運命を大きく変えます。長兄の廃嫡と次兄の早世により、延宝元年(1673年)、父の死を期に家督を相続することとなったのです。

家督相続からわずか数年後の延宝5年(1677年)、重種は奏者番兼寺社奉行に任命されます。これは、幕府における重要な地位への就任を意味し、重種の政治的才能が開花しつつあったことを示しています。しかし、真の転機は延宝8年(1680年)に訪れます。4代将軍徳川家綱の死去に伴い、5代将軍となった徳川綱吉によって、重種は見事に老中に抜擢されたのです。

老中就任は、重種にとって絶頂期と言えるでしょう。天和元年(1681年)には1万石の加増と武蔵岩槻への転封という栄誉を受け、さらに綱吉の息子の徳松付きの西の丸老中も兼任することになります。しかし、この栄光は長くは続きませんでした。水戸藩主徳川光圀との対立が重種の運命を狂わせていきます。光圀は、綱吉の甥である綱豊を将軍候補として推していましたが、重種はこれに反旗を翻したのです。この対立は、重種と光圀、そして幕府内部における複雑な権力闘争を象徴する出来事でした。

さらに、重種は家中の混乱という新たな問題に直面します。それは、自身の後継者問題でした。実子である重寛と甥の重宣の間で家督争いが勃発し、板倉家は内紛に苦しむこととなります。こうした内紛と光圀との対立は、綱吉の怒りを買い、天和元年(1681年)11月、重種は老中職を解任されてしまいます。そして翌天和2年(1682年)2月、1万石の減封の上、信濃坂木へと懲罰的な転封を命じられたのです。

坂木への転封は、重種にとって政治生命の終焉を意味しました。しかし、重種は隠居以前から領地の奉還を幕府に願い出ており、祖先の功績が認められた結果、隠居を許されます。天和3年(1683年)5月、重種は隠居し、5万石あった領地のうち3万石を重寛に、2万石を重宣に分知しました。重宣は後に上総高滝藩主となるでしょう。こうして、板倉家は存続することとなりますが、重種自身は政治の表舞台から完全に退いたのです。

宝永2年(1705年)、重種は65歳で生涯を終えます。坂木藩はその後、幕府領となりました。重種の短い老中在任期間は、栄光と転落のドラマであり、江戸幕府の複雑な政治情勢と、大名の苦悩を映し出す鏡と言えるでしょう。彼の生涯は、権力闘争の激しさ、家督相続の難しさ、そして時代の流れに翻弄される人間の弱さを私たちに教えてくれます。

年譜

寛永18年（1641年）：誕生
寛文12年（1672年）：板倉家世子となる
延宝元年（1673年）：重矩卒、烏山藩板倉家を相続
延宝5年（1677年）：奏者番兼寺社奉行
延宝8年（1680年）：寺社奉行免、老中
天和元年（1681年）：岩槻に転封、老中免職
天和2年（1682年）：坂木に転封
天和3年（1683年）：隠居
宝永2年（1705年）：死去

官歴

寛文元年（1661年）：従五位下兵庫頭
延宝元年（1673年）：石見守
延宝8年（1680年）：従四位下内膳正

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