林完

林 完（りん かん）

林 完（朝鮮語: 임완）は、生没年が不詳ながら、高麗王朝に仕えた文臣です。彼は元々、中国の宋王朝の出身であり、高麗に帰化して官僚としての道を歩みました。

経歴

林完の経歴は、1114年に官吏登用試験である文科に合格したことから本格的に始まります。及第後、彼は礼部（儀礼や教育、外交などを担当する部署）の員外郎（次官級の官職の一つ）に任じられました。これは、彼が既に学識と実務能力を認められていたことを示唆しています。

高麗第17代国王である仁宗の治世において、林完はさらに要職を歴任します。仁宗は学問や文化の振興に力を入れており、その一環として寿昌宮の近くに書籍所を設置しました。林完は、この書籍所の顧問を務め、書籍の管理や学術的な活動に関与したと考えられます。この役職は、彼の学識が国王からも高く評価されていた証と言えるでしょう。

また、林完は国子司業知制誥（こくししぎょうちせいこう）という重要な官職にも任じられました。国子司業は、当時の国立高等教育機関であった国子監（国子学）の責任者の一人であり、学生の教育や学監の運営を司りました。知制誥は、国王の詔勅（しょうちょく）や綸旨（りんじ）といった重要な公文書を作成する役職であり、王命を文章化するという非常に機密性の高い任務を担っていました。これらの役職を兼任したことは、林完が学識と同時に、国家の枢機に関わる実務能力も兼ね備えた人物であったことを示しています。

妙清（みょうせい）への上訴

林完の事績の中で最も特筆されるのは、1135年に当時の有力な僧侶であり、政治的影響力を持っていた妙清（朝鮮語: 묘청）に対して、その処刑を求める上奏（王への意見具申）を行ったことです。

妙清は、地理風水説に基づいて高麗の首都を開京（現在の開城）から西京（現在の平壌）へ移すことを強く提唱し、仁宗に取り入っていました。彼は西京に大華宮という大規模な宮殿を建設しようとしましたが、これには膨大な労力と財力が費やされ、多くの民衆が苦しめられていました。

林完は、こうした妙清の行動を看過できませんでした。彼は、妙清が根拠のない説をもって民衆を惑わし、さらに無益な宮殿建設によって民を困窮させていると厳しく批判しました。そして、仁宗に対して、妙清を国家と民衆にとって害であるとして、その排除、すなわち処刑を断固として断行するよう求める内容の上奏文を提出しました。

この林完の上訴は、当時の高麗朝廷内部における政治的対立、特に開京を基盤とする保守的な勢力と、西京遷都を唱える新興勢力（妙清派）との間の緊張関係の中で行われたものと考えられます。また、儒教的な価値観を重んじる官僚層と、地理風水や仏教、道教といった要素を取り入れた妙清の主張との間の思想的な対立も背景にあったでしょう。林完は、帰化人でありながらも、高麗の官僚として国と民の安定を願い、当時の政治的混乱の一因となっていた妙清の排除を主張したのです。

残念ながら、林完の生涯に関する記録は非常に断片的であり、彼がこの上訴の後どうなったのか、いつ亡くなったのかといった詳細は不明です。しかし、限られた情報から、彼が中国からの帰化人として高麗社会で重要な地位を築き、国の重要な局面で自身の意見を表明した人物であったことがうかがえます。

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