柏挙の戦い

柏挙の戦い：呉と楚の命運を分けた激戦

紀元前506年、春秋時代において、呉と楚という二つの大国が激突した「柏挙の戦い」。この戦いは、単なる一戦を超え、両国の命運を大きく左右する転換点となりました。呉の勝利により、楚の首都・郢は陥落し、春秋時代の勢力図は大きく塗り替えられることになります。

戦いの背景

呉の台頭

呉はもともと、楚の東に位置する小国でした。しかし、楚が北の大国・晋と対立する中で、晋は楚の勢力拡大を抑えるため、呉を支援。呉軍は、晋から軍事訓練を受け、徐々に力をつけていきました。紀元前584年には楚を破り、州来を併合するなど、着実に勢力を拡大。

伍子胥の復讐

楚では、平王の時代に腐敗した役人・費無忌が暗躍。費無忌は、太子建の妃を王に娶らせ、太子が王位に就いた後の復讐を恐れ、太子を追放しました。さらに、太傅の伍奢とその長男・伍尚を讒言により殺害。伍奢の次男・伍子胥は呉へ逃れ、復讐を誓います。
呉では、伍子胥は公子光の信頼を得て、公子光による呉王僚の暗殺を助け、公子光は呉王闔閭として即位しました。

呉楚の戦い

戦争の始まり

紀元前506年、呉王闔閭は楚への侵攻を決意。自ら軍を率い、弟の夫概、伍子胥と共に進軍しました。楚の令尹・嚢瓦が捕らえていた小国・唐と蔡も呉に味方し、呉軍は淮河から漢江へと進みました。

楚軍の戦略と誤算

楚軍は、嚢瓦と司馬・沈尹戌が指揮を執り、漢江西岸で呉軍と対峙。沈尹戌は、嚢瓦が漢江沿いで呉軍を足止めし、自身は北方から呉軍の退路を断つ作戦を提案しましたが、嚢瓦はこれを無視。史皇の讒言により、嚢瓦は沈尹戌を出し抜いて独断で攻撃を開始し、その結果、呉軍に三連敗を喫します。

柏挙での決戦

11月19日、両軍は柏挙で激突。夫概は闔閭の許可を得ずに私兵を率いて攻撃し、楚軍を混乱させました。楚軍は敗走し、嚢瓦は鄭へ逃亡。夫概は楚軍を徹底的に追撃し、壊滅的な打撃を与えました。

沈尹戌の最期

沈尹戌は、敗走する楚軍を救うため、夫概に立ち向かいますが、呉軍に包囲され、負傷。自らの首を部下に託し、郢へ持ち帰らせるという最期を遂げました。結果的に、楚軍は五戦全敗を喫し、壊滅状態となりました。

呉の入郢とその後

郢の陥落

楚の昭王は、敗戦の報を聞き、主要な武官たちの反対を押し切り、少数の側近とともに逃亡。11月29日、呉軍は郢に侵入し、大規模な焼き討ち・虐殺・略奪を行いました。楚の首都は壊滅し、楚は事実上の滅亡状態に陥りました。

伍子胥の復讐

伍子胥は、郢に入ると、かつての仇である平王の墓を暴き、300回鞭打つという復讐を果たします。さらに、昭王を探し出し、徹底的な報復を試みました。

楚の再起

呉の侵攻後、申包胥は秦に援軍を求めました。当初は拒否した秦の哀公も、申包胥の献身的な姿に心を動かされ、楚を支援することになります。また、越も呉の隙を狙い、呉領に侵入。申包胥が率いる秦軍や楚の残党、楚の子西に率いられた軍が呉を打ち破ります。呉の属国だった唐も滅亡し、呉は孤立。呉軍は楚から撤退せざるを得なくなりました。

戦後の状況

その後、呉と楚は何度も戦いますが、大規模なものはなく、楚は紀元前504年に鄀に遷都し、徐々に安定を取り戻します。呉は越との戦いに注力するようになり、楚との大規模な戦いは終結しました。

柏挙の戦いの影響

柏挙の戦いは、春秋時代の勢力図を大きく変えるターニングポイントとなりました。この戦いにより呉が台頭し、また、孫武の名が天下に知れ渡ることになりました。また、この戦いは、後に起こる春秋時代の後半戦にも大きな影響を与えることになります。

この戦いは、軍事的な戦略だけでなく、政治的な駆け引き、そして人間の復讐心と友情といった、複雑な要素が絡み合って展開された、春秋時代を代表する戦いの一つと言えるでしょう。

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