柳さく子

柳さく子：輝きと哀愁を秘めた銀幕のスター

柳さく子（やなぎ さくこ、1902年11月3日 - 1963年3月20日）は、日本の女優であり、本名は畔柳千代子でした。彼女は、大正から昭和初期にかけて松竹映画で数多くのヒロインを演じ、その美貌と演技力で観客を魅了しました。

生い立ちと少女歌舞伎時代

柳さく子は、東京市浅草区で畔柳千代子として生まれました。幼い頃に両親を亡くし、叔母夫婦に引き取られました。養父は袋物師でしたが、生活は苦しく、千代子は幼い頃から常盤津、長唄、日本舞踊などの芸事を仕込まれました。10歳の時、家計を助けるために地元の劇場を拠点とする「少女歌舞伎」に入座し、「市川左久江」の芸名で看板女優として活躍しました。

映画女優への道

少女歌舞伎解散後、柳さく子は生活のために映画界へ足を踏み入れました。1922年1月、松竹蒲田撮影所に大部屋女優として入社し、本格的に映画女優としてのキャリアをスタートさせます。

松竹蒲田での活躍

入社後まもなく、池田義臣監督に見出され、『不如帰』(1922年)で重要な役どころに抜擢されました。芸名も「柳さく子」と改め、順調なスタートを切りました。当時、栗島すみ子、川田芳子、五月信子の3人がトップ女優として活躍する中、柳さく子は彼女らに次ぐ若手女優として期待され、数々の作品に出演しました。小柄ながらも愛らしい容姿と、舞台で培った演技力で頭角を現し、人気を集めました。

1923年公開の『女と海賊』で主演を務め、一躍スターダムにのし上がりました。関東大震災による撮影所の移転後も、主演級として活躍し続けました。

松竹下加茂への移籍と時代劇スターとしての地位確立

1924年9月、柳さく子は野村芳亭監督とともに松竹下加茂撮影所へ移籍。ここでは看板女優として、『お伝地獄』など数々の作品で主演を務めました。蒲田撮影所へ戻った後も、重宗務監督作品を中心に時代劇で長期にわたり主演を務め、男優が中心だった時代劇の世界において、異例の存在感を示しました。その人気は、阪東妻三郎と並び称されるほどでした。1929年には、舞踊の名手であった彼女の記録映画『柳さく子十八番舞踊集』が製作されるなど、その人気ぶりは映画界でも特別なものでした。

晩年と死

1931年、再び松竹下加茂撮影所へ移籍し、以後は脇役としての出演が増えました。太平洋戦争の激化により1942年に松竹を退社。戦後は健康を害し、経済的にも困窮しました。晩年は生活保護を受け、京都府下の施療院で療養生活を送りました。

1963年3月20日、肺水腫のため60歳で死去。天涯孤独の身でしたが、下加茂時代の俳優仲間・武井龍三の尽力により、京都の吟松寺に葬られました。没後、彼女の墓標として「柳咲子地蔵尊」が建立され、今もその功績を偲ばれています。

柳さく子の生涯は、華やかなスターの光と、晩年の寂しい影が対照的に描かれています。彼女が銀幕に残した数々の作品は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

主なフィルモグラフィ

不如帰 (1922)
女と海賊 (1923)
お伝地獄 (1925)
白虎隊 (1927)
* 月夜鴉 (1939)

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