柳川調興

柳川調興：対馬藩家老、幕府への直訴、そして文化人として

柳川調興（やながわ しげおき）は、慶長8年（1603年）に対馬藩の家老・柳川智永の子として生まれました。玄蕃頭、豊前守を名乗り、式山、梅軒、素庵という号を持っています。

対馬藩における柳川氏

柳川氏の祖父・柳川調信は元々商人でしたが、宗氏一族の津奈調親に仕官し、その後、宗義調に仕えました。調信は交渉能力に長けており、豊臣秀吉の九州平定や文禄・慶長の役での朝鮮との折衝で活躍し、秀吉から宗氏へ与えられた領地のうち1千石を知行地として与えられました。その後、柳川氏は対朝鮮外交の実務を担い、江戸幕府からも重視され、本多正純の介入により更に1千石が加増されました。

このような功績を持つ柳川家の家督を、調興は慶長18年（1613年）に幼くして相続しました。彼は江戸で育ち、徳川家康、秀忠の小姓に任ぜられるなど、幕府直臣のような待遇を受け、自身もその意を強くしていました。

藩主との対立と柳川一件

しかしその後、調興は藩主・宗義成と対立し、幕府直臣の旗本になることを画策します。2000石の所領で旗本になることを望む調興に対し、義成はそのうち1000石を対馬藩領とするよう主張し、対立は激化しました。調興は正室であった義成の妹を離縁し、寛永8年（1631年）には幕府に訴え出ましたが、事態は収束しませんでした。

そして寛永10年（1633年）、調興は対馬藩の国書改竄を幕府に直訴するに至ります（柳川一件）。

裁定、流罪、そして文化人として

寛永12年（1635年）、3代将軍・徳川家光による裁定の結果、調興は敗訴し、流罪を命じられ弘前藩預かりとなりました。老中・土井利勝の配慮により、7名の家臣が同行を許され、弘前城南西に広大な屋敷を与えられました。調興は一流の文化人として、藩主・津軽信政から敬意を受け、賓客として遇されました。その後半世紀近くを津軽の地で過ごし、延宝2年（1674年）には、城内に設けられた能舞台の初演に、信政や黒石津軽信敏らと同席して観覧するなど、手厚い待遇を受けました。

貞享元年（1684年）、柳川調興は弘前で亡くなりました。墓所は弘前の長勝寺にあります。

柳川調興は、対馬藩の家老として生まれながらも、幕府への直訴という大胆な行動を起こし、その結果流罪となりました。しかし、流罪先では文化人として藩主から敬意を受け、穏やかな晩年を過ごしました。彼の波乱に満ちた生涯は、当時の社会情勢や武士の生き方を考える上で重要な事例と言えるでしょう。

参考文献
田代和生『書き替えられた国書』中央公論新社、1983年
『厳原町史』厳原町誌編集委員会、1997年

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