柴田鳩翁

柴田鳩翁：失明を乗り越え、人々を魅了した心学者

柴田鳩翁（1783-1839）は、江戸時代後期に活躍した、町人出身の心学者です。京都で生まれ、代々江戸飛脚の本番宰領を務める家柄でしたが、幼少期に遭遇した天明の大火で家計が苦しくなり、呉服店に奉公に出されました。幼い頃から読書好きで、奉公の合間を縫って読書に耽る日々を送っていました。

その後、両親を相次いで亡くし、姉夫婦の元に身を寄せることを拒み、19歳で江戸へ出ていきます。しかし、江戸での生活は長く続かず、京都に戻り、塗物の内職で生計を立てました。28歳の頃、講談師として活躍を始め、「眉山」と号して人気を博します。

講談師としての活動と並行して、石田梅岩の『都鄙問答』と出会い、心学に感銘を受けます。京都の心学者、薩埵徳軒に師事し、熱心に心学を学びました。そして、39歳にして明倫舎から堵庵断書を授かり、さらに修行を深めるために黄檗宗の法蔵寺で参禅を行いました。

28歳で講談師として活躍を始め、39歳で明倫舎より堵庵断書を授かりました。その後、禅と心学の共通点を悟り、講談師を引退。丹後田辺で道話を始め、各地を巡回するようになりました。分かりやすい口語体で、身近なエピソードを交えた道話は多くの人々の心を捉え、心学講話の第一人者として広く知られるようになりました。

しかし、45歳の時に失明という大きな困難に直面します。それでも、剃髪し、号を鳩翁と改め、盲人となった後も全国各地を巡り、道話を続けました。失明を逆手に取った話術で聴衆を魅了し、津山での講演会では連日1000人を超える聴衆を集めたと伝えられています。

鳩翁の道話は、弟子である武修によって書き記され、『鳩翁道話』として出版されました。この本は、町人や百姓だけでなく、武士や公家にも広く読まれ、鳩翁の思想は社会に大きな影響を与えました。仁和寺宮済仁法親王や、京都所司代、奉行といった要職の武士からもしばしば招かれ、講話を披露しました。

心学の祖である石田梅岩の百年祭では、陰陽頭を務めた土御門晴親が拝礼を行い、鳩翁が道話を披露しました。しかし、これが鳩翁にとって最後の講話となり、翌月、57歳で亡くなりました。京都の昌福寺に葬られ、後に門人によって、石田梅岩の墓の近くに墓碑が建てられました。

昭和3年、従五位を追贈されました。鳩翁の生涯は、逆境を乗り越え、信念を貫き通した、感動的な物語です。その思想は、現代社会においても、多くの人々に示唆に富むものと言えるでしょう。

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