桂文三 (3代目)

3代目桂文三：赤人力車の落語家、波瀾万丈の生涯と芸の深淵

1858年生まれの3代目桂文三は、上方落語史に名を刻む人気落語家でした。通称「赤俥の文三」「盲目の文三」と呼ばれ、その華やかな生活と晩年の悲劇的な境遇は、多くの逸話とともに語り継がれています。本名は高田留吉、享年57歳でした。

放蕩から落語家へ：若き日の遍歴

船場安土町の船大工の家に生まれた文三は、早くに父を亡くし、放蕩の限りを尽くす日々を送ります。幼い頃から芸事に興味を持ち、当初は芝居の唄い手を目指していました。その後、3代目桂文吾、2代目桂文昇といった名だたる落語家のもとで修行を重ねます。師匠の反対を押し切り、独立を果たし、様々な名で活動、京都でも活躍しました。林家染丸を名乗っていた時期もありましたが、これは代数には含めていません。

「松づくし」と人気絶頂：美声から踊りへ

当初は美しい声を生かした音曲噺を得意としていましたが、喉を痛めて断念。そこで始めたのが「松づくし」という踊りでした。碁盤の上に山桐の一本歯下駄をはき、全身に松模様の扇子を飾り付けるという技巧的な踊りです。バランスが難しく、下駄職人の2代目桂梅枝に特注の下駄を作ってもらうほどでした。この踊りはたちまち人気を博し、文三の代名詞となりました。

1894年、師匠である2代目桂文枝の前名である3代目桂文三を襲名。赤い人力車に乗り、金品を身につけて街を闊歩する姿は、大阪の風物詩として有名になりました。この赤い人力車は、後に初代桂春團治のエピソードにも登場することになります。

桂派除名と晩年の苦難：失明と悲劇

順風満帆だった文三のキャリアも、師匠との確執により暗転します。1908年、桂派を脱退し京都に移りますが、翌年には復帰。しかし、落ち着くことなく、1910年には三友派に移籍するなど、不安定な時期を過ごします。1914年頃には脊髄癆を患い、失明の憂き目に遭います。晩年は法善寺紅梅亭席主の原田政吉に世話になりながら生活を送ることになります。

1917年、師匠の一周忌法要の施主を務めた直後、心臓病により急死しました。2代目桂文左衛門を襲名予定であり、また独演会「文三会」も計画していました。失明後も芸の腕前は衰えず、当代随一の腕前と評されていたのは皮肉な事実でした。

名人としての評価と悲しき最期：後世への影響

文三の芸の高さは、当時人気絶頂だった初代桂春團治の言葉からも伺えます。「師匠の後の高座には、酒を飲まないと出られへん」というエピソードは、文三の圧倒的な存在感を物語っています。多くの得意ネタを持ち、『ぜんざい公社』という新作落語の原型も文三が作ったとされています。

晩年は失明により、高座に付きっきりで演じる「板付き」という辛い状態でした。堺の天神席での高座では、客が一人もいない状況で芸を披露するなど、悲痛な場面も残されています。しかし、その芸の深みは、失明後の方が増したと評されており、多くの弟子にも影響を与えました。弟子には、実子の4代目桂文三をはじめ、初代桂ざこば、5代目桂小文吾など、著名な落語家が多く含まれています。

文三の生涯は、華やかさと悲劇が交錯する、まさに波瀾万丈の物語でした。彼の芸は、今もなお、上方落語界に大きな影響を与え続けています。大阪四天王寺に眠る彼の墓は、多くの落語ファンにとって、今もなお敬意と哀悼の念を払われる場所となっています。

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