桂本万葉集

桂本万葉集について

桂本万葉集（かつらぼんまんようしゅう）は、現存する最古の万葉集の写本として知られています。具体的には、巻第四のみが現存しており、零巻は典籍の大部分が残っているものの、いくつかの部分が欠けているという貴重な資料です。また、約40葉にわたる断簡も存在し、特に「栂尾切」（とがのおぎれ）と呼ばれるものが有名です。

歴史的背景

桂本万葉集の筆者としては、零巻が紀貫之によって書かれたと伝えられていますが、断簡に関しては源順の手によるものとされています。実際には、高野切の第二種に属する書体が確認されており、源兼行やその系統の書き手による可能性が高いと考えられています。この写本の書写年代は、11世紀後半にあたります。

構成と内容

桂本万葉集とその断簡である栂尾切は、万葉集の中でも特に巻第四の写本として重要な位置を占めています。この写本は、五大万葉集の一部であり、他のバリエーションには藍紙本、金沢本、元暦校本、天治本などがあります。現時点では、他の巻と相互に呼び合う僚巻が発見されていない状態です。

詳細な資料によると、料紙のサイズは縦26.9cm、横50.2cmあり、草赤紫茶藍のつけ染めと白紙が使用されています。金銀泥によって花や鳥、草木などの下絵が施され、天地には墨の境界が引かれているのも特徴的です。記載には万葉仮名書きと仮名書きが併用されており、作者名や詞書は、歌のレベルよりも一段高い位置に配置されるという独特の書式を持っています。これは、仙覚による万葉集の識語を通じ、古体の書式であることが伺えます。現存する零巻は、合計16枚の料紙から成り、493行、全109首を含みます。ただし、巻頭には45首が欠けており、古い部分や歌の大半が失われてしまっています。結局、309首存在するはずの巻第四の歌のうち、約200首が欠落しており、その一部は栂尾切で確認されています。

伝来経路

桂本万葉集は、裏面の継目に伏見天皇の花押が押されており、一時はその所蔵に属していたと考えられています。元亀から元和の時代にかけて、前田家に伝わり、具体的には前田利家の妻である芳春院が所持していました。その後、豊臣秀次が巻頭と奥書を切り取ってしまったことで、現在の形が残されています。現在の零巻は、巻末と巻頭が切られていますが、これらは全て秀次によるものということがわかっています。その後、前田利常を経て、利常の四女が嫁いでいる八条宮に贈られました。そして、明治時代には八条宮が断絶した際に明治天皇に献上され、現在は御物となっています。

栂尾切に関しては、付属の極札や鑑定資料が多数存在し、江戸時代の初期に相当数が切断されていたことがわかっています。しかし、その名称の由来は明らかではなく、一部が栂尾に伝わったことが推察されます。栂尾切についての初出は、『増補古筆名葉集』に見られる記載です。「栂尾切　四半万葉真名カナ哥二行書　金銀下画花鳥岩水草アリ」との記述が残されています。

このように、桂本万葉集および栂尾切は、万葉集の研究や文学的遺産として極めて重要であり、古の日本文学の理解に欠かすことのできない貴重な資料です。

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