御物

御物：皇室に伝わる至宝の歴史と現状

日本の皇室には、代々受け継がれてきた絵画、書跡、刀剣など、数多くの貴重な品々が存在します。これらは「御物（ぎょぶつ）」と呼ばれ、皇室の私有品として大切に保管されてきました。室町幕府8代将軍・足利義政の所蔵品を指す「東山御物」、徳川家に伝来した名物茶道具を指す「柳営御物」など、様々な呼び名がありますが、一般的に「御物」といえば皇室の私有物を指し、「ぎょぶつ」と読みます。

戦前までの御物

第二次世界大戦以前の御物は、皇室に代々伝わる品々、購入された美術品、有力武将からの献上品など、多様な品々が混在していました。東京、京都、奈良の帝室博物館（現在の国立博物館）の所蔵品も御物の一部でした。これらの品々は、皇室の歴史や文化を象徴する貴重な資料として、大切に扱われてきました。

昭和戦後：国有財産化と文化財保護法

第二次世界大戦後、日本国憲法第88条の規定に基づき、皇室の資産は原則として国有財産となりました。皇居、御用地、御用邸などの土地建物、正倉院の宝物なども国有財産（皇室用財産）となり、その管理体制は大きく変化しました。御物は慣例的に文化財保護法による指定の対象外とされ、国宝や重要文化財などの指定は受けていませんでした。

平成：国庫への物納と現状

1989年の昭和天皇崩御後、御物の大部分は相続に伴い国庫に物納され、宮内庁管轄の三の丸尚蔵館に収蔵されることとなりました。三の丸尚蔵館には、狩野永徳筆の「唐獅子図屏風」、名高い絵巻物である「春日権現験記絵巻」「蒙古襲来絵詞」、伊藤若冲の代表作「動植綵絵」、小野道風の「屏風土代」など、数多くの国宝級の作品が収蔵されています。これらの作品は、1989年以降は国有財産となりましたが、文化財保護法の対象外であり、国宝や重要文化財の指定は受けていませんでした。しかし、2021年以降、これらの御物以外の国有財産が文化財保護法の対象として国宝や重要文化財に指定されるようになり、同年7月には上記5点が国宝に指定されています。

一方で、「三種の神器」をはじめ、皇室にゆかりの深い品々、歴代天皇・皇族の肖像、遺筆、儀式に用いる刀剣類などは、皇室経済法7条にいう「皇位とともに伝わるべき由緒ある物（『御由緒物』）」として、国庫の帰属から除かれ、1989年以降も「御物」と呼ばれ続けています。これらの御物は宮内庁侍従職の管理下にあり、主に皇居内の山里御文庫と京都御所内の東山御文庫に保管されています。昭和天皇崩御時には、約3180件が「国有財産」、約580件が「御由緒物」に仕分けされ、残りの約800件が「御物」のまま残されました。

御物の例

昭和天皇崩御後も御物として残されている美術品には、聖徳太子及び二王子像（法隆寺献納御物）、後鳥羽天皇像、法華義疏（法隆寺献納御物）、伊都内親王願文（伝橘逸勢筆）、桂宮本万葉集、様々な刀剣類（太刀銘国綱（鬼丸）、太刀無銘（小烏丸）、太刀銘備前国友成（鶯丸）、太刀銘国永（鶴丸）、太刀銘吉光（一期一振）、短刀銘吉光（名物平野藤四郎）、太刀銘則宗、刀無銘正宗（名物会津正宗）、太刀銘一（名物道誉一文字）など）、歴代天皇の肖像、筆跡（宸翰）などがあります。昭和天皇の崩御に伴い国有に移管された旧御物は、宮内庁三の丸尚蔵館が保管しています。

御物は、日本の歴史と文化を伝える貴重な遺産であり、今後もその保護と継承が重要な課題となっています。

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